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『道浦TIME』

新・読書日記 2016_044

『地震と独身』(酒井順子、新潮社:2014、2、20)

 

 

自らが「独身」である著者が、東日本大震災に際して、

「独身の人たちは、どのような行動を取ったのだろうか?」

ということに興味を抱き、自ら取材をして書いたもの。

これまで生きて来た世の中・自らの常識が覆るようなことが起こった時に、作家は、

「これから、我々はどうなってしまうのだろうか?」

という人々の不安を、より増幅して感じるのではないか。そして、その「不安の先にある未来」を知るために取材をして書き記すのではないか?著者の酒井さんの場合、この「我々=独身者」だったのだろう。運命共同体のような感じで。

この本を読んでいて思い起こしたのは、ノーベル賞候補に毎年のように上がる世界的作家・村上春樹の『アンダーグラウンド』だ。オウム真理教による「地下鉄サリン事件」の後に、村上がその事件の被害者に聴き取り(インタビュー)をして記したドキュメンタリー。小説家だと思っていた村上が、このようなことをするなんて!?と、当時は意外に思ったが、今回、酒井順子さんのこの本を読んで、小説家であるからこそ、作家・エッセイストだからこそ、「書き残すこと」と「書くこと(調べること)をしたい」という衝動に突き動かされるのではないかなと思った。

「独身は・・・」で始まる各章は、「働いた」「つないだ」「守った」「助けた」「逃れた」「戻った」「向かった」「始めた」「結婚した」という独身の「行動」を記し、最終章では「無常と独身」について記している。

おそらく、「結婚して家庭を作るのが当たり前」という世の中に対して、酒井さんは疑問を持っており、その結果が現在の「独身」に繋がったのだろう。でも「いつかは結婚しなきゃいけないのかな・・・」とも漠然と思っていて、「独身」は「結婚」までの「モラトリアム」的な感覚があったのではないか?(若い内=30代ぐらいまでは)。その状態が固定化された現在、同じような立場の「独身」たちがどのような行動を取るのかを、著者・酒井さんは知りたかったのだろうと思いました。それは、「独身の他人」の話を聞くことで、「独身である自分」を見つめ直す作業にも、なったのではないでしょうか。

 

 


star4

(2016、3、15読了)

2016年3月23日 10:48 | コメント (0)