新・ことば事情
6014「骨が折れる」
知り合いの新聞社の用語担当者に、4月に予定されている会議の内容について相談のメールを送ったところ、
「いま、骨折して入院しているので、退院したらまた連絡します」
という返事が返って来て、ビックリ!
「え・・・大丈夫なんですか?いろいろ面倒なことをお願いして『お骨折り』をお願いしたからでしょうか?」
と返すと、
「いえいえ、ジョギングをしていて転んで、膝の骨を折っちゃったんです。」
とのこと。一日も早い回復を願いますが、
「お骨折り」
といえば思い出すのは、30年ぐらい前、「昭和」の時代の「園遊会」に、柔道の山下泰裕選手(当時)が、招待客の一人として参加した時の、昭和天皇との会話でした。
昭和天皇「柔道は、骨が折れますか」
山下選手「はい。でもお陰様で、もう治りました」
昭和天皇「あ、そう。」
これ、実は山下選手は、園遊会の少し前の「ロサンゼルス五輪」(1984年)の無差別級で、金メダルを取ったのですが、その決勝のエジプトのラシュワン選手との戦いの際「骨折」していたことがあとでわかった、ということがあったのですね。
でも、昭和天皇の、
「骨が折れますか」
は「骨折」の意味では無くて、
「苦労が多いですか?(大変ですか)」
の意味だったのですが、山下選手は、言葉通り受け取って、
「物理的な骨が折れる=骨折」
だと思ったのですね。それで、
「もう、治りました」
と答えたと。そして、それを受けて昭和天皇が、
「あ、そう」
と答えたので、表面上は「意思の疎通がなされた」ように見えたのですが、完全に「勘違いで行き違いがあった」という面白い話を思い出したのでした。