新・ことば事情
6007「彷徨う」
報道フロアでコピーしていると、そのコピー機の隣の席にいる女性スタッフから質問を受けました。
「『テプラ』で『彷徨う』(さまよう)と打ちたいのですけど、どうすれば出ますか?」
と質問を受けた。
「それは『ほうこう』で変換してみたら?」
と言うと、すぐに
「彷徨」
と出ました。
「それに平仮名の『う』を打てばいいね」
「すごーい!」
と尊敬されました。ついでに、薀蓄を垂れました。
「昔、"新田次郎"って人の作品に『八甲田山死の彷徨』というのがあって映画化もされたけど、僕はその本で『彷徨(ほうこう)』って言葉を覚えたんですよ。中学生の時。新田次郎は気象庁に勤めていて、登山が趣味だったので山岳小説が多かったね。『アイガー北壁』とか『栄光の岩壁』とか『孤高の人』とか『聖職の碑』とか。その後作家一本でやるようになったけど。この人の息子さんが、"藤原正彦"っていうお茶の水女子大の教授をやっていた人で、『国家の品格』などのベストセラーも書いた人で、また新田次郎の妻・藤原正彦の母親の"藤原てい"は『流れる星は生きている』という、中国大陸から引き揚げて来る際の話を書いて、これまた、戦後すぐの時期にベストセラーになった本があるね。ちなみに、『さまよう』は和語で、意味が似ている『彷徨』という漢字をあてた『当て字』だし、熟字訓でも採用されていないから、今のパソコンのワープロ機能なら変換で出るかもしれないけど、『テプラ』では出ないだろうね。」
「勉強になりました。ありがとうございます!」
いえいえ、こちらこそ、おっさんの話相手になってくれて、ありがとうございました。