新・読書日記 2016_034
『脳・戦争・ナショナリズム~近代的人間観の超克』(中野剛志・中野信子・適菜収)
中野剛志・中野信子・適菜収という3人の鼎談集。
中野剛志さんと適菜収さんは名前を知っていて、本を読んだこともあるが、中野信子さんという人は知らなかった。最初「中野剛志さんの奥さんかな?」と思ったけど、違うみたい。1975年生まれの脳科学者。本の帯にこの3人の肖像が載っているのだけど、適菜収さんだけ、「ふざけた似顔絵」というか、なんか一筆書きか落書きの様な感じの絵で、他の2人は写真。適菜さんは「顔出し不可」なのね。ネット論壇の人は顔を出さない人が多いというようなことを聞いたことがあるが。狙われるからか?
世の中の様々な政治的な出来事に関して、「脳科学の視点」から分析していくという、かなり画期的なおもしろい視点の鼎談。
帯の赤字の文句は、
「脳内物質オキシトシンが 人類を戦争に駆り立てる」
という扇情的なもの。で、一体「オキシトシン」って何?
この本を読むと「オキシトシン」とは、人間が集団になると幸せを感じるという、
「幸せホルモン」
なんだそうだ。集団だと愛着がわき、妬みの感情を強める、つまり「内集団バイアス」が強まるのだそうだ。関連の記述で言うと、
「オキシトシンを投与すると、妬みに感情は強まる」(203ページ)
「オキシトシンは子宮頸部を刺激すると分泌される。出産を経験すると、オキシトシン濃度は高まる。オキシトシン濃度が高まった途端、向社会性が高まり、些細なことから紛争が勃発する」
どーなんでしょうか?今の日本にとって、実は一番大きな課題は、
「いかにして戦争をしない、戦争に巻き込まれない、で平和を保っていけるか」
だと思う。その意味では「戦争に駆り立てる原因」が、その「脳内物質オキシトシン」を抑えることができれば、戦争を未然に防げるのでないか?とも思うのだが。
目次などを見直して、読んで面白かったところは、と言うと、
「近代を疑え!」
「保守の本質は女性的」
「観相学で『左翼はみんな丸メガネをかける』。大江健三郎、坂本龍一、井上ひさし・・・」
「女性が不安がるのは、セロトニンが少ないから」
「ドーパミンの多い民族は外交上手だが、浮気もする」
「特に男性は、外見と知能の関係性が、女性より強い」(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのサトシ・カナザワ准教授の研究)
「幸せな女性のほうが右っぽくて、不幸な女性が左っぽい」(203ページ)
なんだか、人間&民族の行動が、全て「脳内物質の分泌」で決まっているかのような感じ。ホンマかいな。
「日本人は『保守的』な個体が遺伝子を残しやすかった」
「『聖的なもの』がなくなると社会は崩壊する」
「ISはなぜ古代遺跡を破壊するのか」
「グローバリゼーションの申し子・IS」
「左翼がナショナリズムを嫌う理由」
「『知能』は暴走進化である」
「賢いからこそバカを支持する」
「オキシトシンの出にくい人は橋下支持?」
「正しいを美しいと錯覚する脳」
「腋のにおいが子作りのためのフェロモン」
「サイコパスは正義を擬態する」
「政治は二十年遅れでしか進まない」
「観察者がいて真理が決まる」
などなど、どれも興味深かった。刺激的な内容です。
ところで、
「安倍首相は成蹊大学を出ているのに『成』の字が書けなかった」(34ページ)って、ホンマかいな。(2度目。)
オルテガの『大衆の反逆』やD.リースマンの著作、やっぱりちゃんと読んどかなきゃだめだなと思いました。