新・ことば事情
6002「丒澤」
一昨年11月~12月にかけて、神奈川・川崎市の老人ホームで起きた3件の転落事故、実は、職員が投げ落としていた連続殺人事件であることが分かりました。おぞましい事件です。
その被害者となった3人の内の一人、
「丑澤民雄さん(当時87)」
の「名字の表記」ですが、全国紙(読売・朝日・毎日・産経・日経)はすべて、「澤」の字は略字の「沢」で書いて、
「丑沢」
としています。私が見た限りでは、日本テレビ・読売テレビ、テレビ朝日も、簡単な
「沢」
っです。ところが!NHKのニュースでは、難しい正字の「澤」を用いるのはもちろんのこと、干支の「ウシ」でおなじみの「丑」の字も、
「丒」
という、見たこともない字体で書いていたのです!「刃」の下に「一」がある字です。もちろんこれは、
「異体字」
ですが、おそらく「俗字」なのではないでしょうか?
人名で使う漢字は、一応、法務省管轄の「人名用漢字表」で「862字」が定められ、それプラス「常用漢字表」に載っている漢字「2136字」の合計「2998字」が使えますが、「名字」の字体に関する決まりは、恐らくないのではないでしょうか?
「渡辺」の「辺」の字体が「何十種類」もあるのは、よく知られていますが、新聞や放送では、原則、
「簡単な、わかりやすい字体を用いる」
ことになっています。ただ、
「本人から強い要望があった場合」
は、この限りではないのですが、どこまでそれを受け入れるのかは、とても難しい問題ですね。
先日、日本テレビの『スッキリ!!』では、「渡辺」の「辺」の字体が「邊」「邉」など、
「よく見ないと違いが分からない字体」
がたくさんあることに目を付けた、
「20種類の『辺』の異体字を合わせる"神経衰弱"のカードゲーム」
を紹介していました。あれはちょっと、面白そう。
そしてまた先日、文化庁が、
「漢字の字体の『とめ・はね』などは、どれか一つが絶対正しいというものではない」
ということを、改めてアピールしていました。「手書き」と「印刷体」はそもそも違うのです。しかし、ワープロソフトの普及で、
「字は、打つもの」
になり、「打って出た活字体」が「規範」になってきたことで、
「手書きの、人によって幅のある字体が、許容されなくなって来ている」
と言えるのではないでしょうか。
いま、世の中は「不寛容の時代」に突入し、「コンプライアンス」に雁字絡めになっていて、
「ルールから少しでも外れるとアウト!」
という雰囲気になっていますが、今回の文化庁のアピールは、
「それが『漢字の字体』にまで及んで来ている」
ということへの"警鐘"ではないでしょうか。