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『道浦TIME』

新・ことば事情

6000「立ち振る舞い」

 

 

最近、よく目にする言葉に

「立ち振る舞い」

があります。漫画雑誌の『ビッグコミック』(小学館)の2016年2月10日号で連載されている『総務部 総務課 山口六平太』の「第712話 靴・靴・靴」の中で、主人公の山口六平太が、たまたま街で出会った就職活動中の若者と、バーに行きます。そこでその若者が、

「就活生なんて、みんな同じような格好してますものね」

というと、六平太が、

「だね」

と一言。それに対して就活生が、

「あとは立ち振る舞いとか。」

と言わせています。原作は林律雄さん、作画は高井研一郎さんです。

また、『週刊文春』(1月28日号)の「Close Up」では、取り上げた女優の、

「松岡茉優さん」

に、主演映画『猫なんかよんでもこない。』について聞いています。その中で、共演者の風間俊介さんと以前共演したNHK木曜時代劇『銀二貫』の中での、風間さんの様子・人柄を紹介して、松岡さんは、こう言っています。

「住宅街でのオールロケだったのですが、住民の方々に『何の撮影しているんですか?』と尋ねられると、風間さんが率先して説明したり、道をあけたりしてるんですよ。主演俳優のそんな"立ち振る舞い"をみたのは初めてで、こんな人になりたいと思いました。」

ここでも「立ち振る舞い」が出て来ました。

これは本来「間違い」だと、私は思います。正しくは、

「立ち居振る舞い」

どこが違うかと言うと、「居」が入るか、入らないか。「立ち居」で「立ったり」「座ったり」の「振る舞い」だと思うので。

ところが!『悩ましい国語辞典』(神永暁、時事通信社)を読んでいて驚きました!「立ち振る舞い」という「居」が抜けている形も、結構、古くから使われていると言うのです!(163~164ページ)それによると、神永さんが編集を担当した『日本国語大辞典』には『立ち居振る舞い』の初出は、臨済宗の僧・桃源瑞仙が書いた中国の歴史書『史記』の講義録である『史記抄』(1477年)であり、一方「立ち振る舞い」の初出は、世阿弥が書いた能楽論集『風姿花伝』(1400~1402年ごろ)なのだそうです。ということは、「立ち振る舞い」の方が古いことになります。更に、キリシタン宣教師がまとめた『日葡辞書』(1603~1604年)には「タチフルマイ」で載っているというのです!

ショックです。

ただし、明治時代以降の文学作品の用例では「立ち居振る舞い」が圧倒的に多いそうです。

辞書では『三省堂国語辞典』は、両方載せています。『新明解国語辞典』『岩波国語辞典』は、「立ち振る舞い」は「空見出し」です。「デジタル大辞泉」も両方載せていますが「立ち居振る舞い」の意味では「立ち振る舞い」は「空見出し」で「立ち振る舞い」のほうは「たちぶるまい」と読ませる別の意味になっています。『明鏡国語辞典』『新潮現代国語辞典』『広辞苑』『大辞林』も両方載せています。

うーん、こうなると、両方認めるしかないのかなあ。また、次の用語懇談会で聞いてみるかな。

(2016、2、15)

2016年2月19日 22:00 | コメント (0)