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『道浦TIME』

新・ことば事情

5999「ドローン没収」

 

 

去年4月、首相官邸にドローンを飛ばした(屋上で見つかった)として、

「威力業務妨害」

などの罪に問われた41歳の男に対して、2月16日、東京地裁は、

「懲役2年、執行猶予4年、ドローン没収」(求刑は懲役3年、ドローン没収)

の判決を言い渡しました。この判決の中の、

「ドローン没収」

に、ちょっと笑ってしまいました。子どもがいたずらをして、玩具を取り上げられたような感じがしたのです。しかしここで、

「なぜ、判決内容に『ドローン没収』などという文言が入っているのだろうか?」

という疑問が出て来ました。

2月17日付「日経新聞」朝刊を読むと、男は無罪を主張していた上、「ドローンを返してほしい」と述べていたそうです。

もし、没収された物が、

「拳銃や刀」

等であれば、「銃刀法違反」などで、当然、没収されるでしょう。法律で、原則「所持が禁止」されていますからね。しかし「ドローン」は、所有が禁止されているわけではありません。「改正航空法」で「飛行区域」などに関しては制限する法律ができましたが、持っているだけで没収されるものではないのです。であるとすれば、そのドローンが「威力業務妨害」という罪を起こす際に使われたとしても、「私有財産」なので原則的には、

「没収されない」

はずです。それを「没収する」というのであるなら「判決文にその一文を入れないとダメ」ということなんでしょう。でも、「クローン」を没収しても、

「また、購入することはできる」

はずなので、どれだけ意味があるのか?という疑問もあります。これは、

「経済的な打撃」

を与えることにはなりますから、その意味では、

「罰金」

に相当するのかもしれません。

ちなみに、去年4月時点では「ドローン」を「飛ばす」ことは違法ではなく(法律がなかったから)、起訴容疑の、

「威力業務妨害」

とは、

「ドローンを除去し、また警備体制を強化させるなど警備の人の手を煩わせたことによって、通常の業務を妨げた」

ことにより「有罪」と断定されたのですが、それで「懲役2年」というのは、執行猶予が付いていても(それも「4年」と長い)「重い」ようにも思えます。そもそも、警備の人たちは、

「予期せぬ出来事にも備えてコトにあたることこそ『業務』」

なのですから、その意味では今回の「ドローンを飛ばしたこと」は「業務妨害」ではなく、

「業務推進」「業務推進幇助」

なのではないでしょうか。しかし、本当の「罪」は、

「首相官邸に、人知れずドローンを飛ばすことができることを証明したこと」

なのでしょう。東京地裁の田辺三保子裁判長が述べた、

「模倣性の高さを考慮すると、結果は軽視できない」

というのは、

「首相官邸など国の中枢施設を、ドローンに武器を搭載して攻撃する"テロ行為"を誘発する恐れがある」

ことを示しており、その意味では、

「準テロ行為」

と判断して思いう判決になったのでしょうね。それでは、「ドローン没収」も仕方がありません。

さらに言うと、もしこれが、「たまたま」首相官邸付近でドローンで遊んでいたら、「誤って」(操縦ミスで)首相官邸の屋上ドローンが落ちちゃった、ということであれば、これほど重い判決は出なかったのではないでしょうか?「過失」であり「悪意はない」ということになりますからね。(「それを装っていて、真意は別」ということならば、話は別ですが。)

つまり、

「生じた結果は同じでも、その行為の"意図"によって、罪の重さは変わる」

ということで、

「『過失致死』と『殺人』では、『人を殺した』ことは同じでも、罪の重さは違う」

というのは、まさにそのことを示していますね。「倫理的な罪」と「法的な罪」は、必ずしも一致しないのです。

そうすると、今回の判決は、「テロ」を未然に防ぐ

「予防的措置としての判決」

と言えるのかもしれません。

(2016、2、17)

2016年2月19日 20:00 | コメント (0)