新・ことば事情
5978「返さないつもりはなかった」
2月10日、被害総額113億円の詐欺事件の初公判が、神戸地裁姫路支部で開かれ、その裁判で藤原道子被告は、
「金を返さないつもりはなかった」
と話したと、読売テレビの夕方のニュース番組『関西情報ネットten.』で伝えていました。
これって、なんかおかしな日本語です。引っかかります。「二重否定」です。普通は、こう言うのではないでしょうか?
「金は返すつもりだった」
これならば、すんなり入って来ます。腑に落ちます。なぜ藤原被告は、こんな言い方をしたのか?考えてみました。
「返さないつもりはなかった」
の背景には、
「実際には、『返していない』という事実」
がありますね。だから捕まったわけで。そして、捜査当局は「詐欺」で捕まえているわけですから、当然「詐欺の犯意」を立証しようとします。つまり、藤原被告に対しては、
「最初から、『金を返さないつもり』だったのだろう!」
と追い込みますな。それに対する藤原被告の答えが、
「『金を返さないつもり』はなかった」
になったのではないでしょうか?
もしこれが、捜査当局からの問いかけが、
「金を返すつもりは『なかった』のだろう!」
であったならば、
「金を返すつもりは『あった』」
と普通ならば、返答があると思うのですが。
それと、本心から金を返すつもりがあったとしたら、
「『返さない』が主語になるような返答はしなかった」
はずで、その意味でも、
「全額返さない、というつもりはなかった。少しは、返そうと思っていた」
ぐらいのニュアンスがにじむと、
「金は返さないつもりはなかった」
という、とてもひねくれた「二重否定」になるのではないか?と分析しました。
いかがでしょうか?