新・読書日記 2016_018
『新しい天体』(開高健、新潮文庫:1976、3、30第1刷・1985、8、10第16刷)
タイトルに「天体」とあるから「科学小説」かと思っていたら「美食小説」である、ということを、去年の年末の日経新聞の野瀬泰申さんの「たこ焼き」コラムで知って、「読んでみたいな」と思い、本屋さんに取り寄せの注文をしたところ、なんと「絶版品切れ、再版予定ナシ」。そこで、改めて自宅の本棚を捜してみたところ、ありました!昔(30年前)に買って、読まずに「積ん読」になっていた。もうページの紙が黄色く変色して、30年の時の流れを表している。それに字が小さいこと!老眼になった私には、結構、厳しい。
読んでみると、開高独特の文章の流れを感じる。これが作家の「文体」なんだなあ。
景気の動向を探るために、お役所の余った予算を使い切って日本全国を飛び回って美食を食べ尽くす任務を帯びた主人公。流石に小説でなければありえないアイデア。
途中(68~69ページ)で気になったのは、開高が「地下街」に関して記しているところ。
「大阪は穴だらけ、空洞だらけになってしまったのだ。(中略)地下街は大地の水をぬきとることで足のうらにさらに巨大な空洞を造成しつつあるのだといえはしないだろうか。もしそうならば、この地下街はそのコンクリのものすごい重量でゆっくりと沈下しつつあるのだといえる。(中略)もうここに地震がきたらどうなるのだろうかと思うと、とらえようのない恐怖をおぼえずにはいられない。関東大震災だけが地震ではあるまい。もっと強大で深遠な衝撃が起こるものと考えておかなければならないはずのものである。<つねに最悪の事態に備える覚悟をしておけ>といったのは明治の福沢諭吉だが、それはこの国で暮らしていくについての、五十年たとうが百年たとうがけっして消してしまってはならぬはずのものである。」
うーん、慧眼ですね。
それと瀬戸内晴美と岡部冬彦と思しき人たちが出てきたりして、楽しい。
二人の会話として記されていたのが、岡部が朝鮮戦争の時に、北朝鮮軍が38度線を越えてなだれ込んで来て国連軍が迎え撃つことになったとき、ブラジルは出兵するかどうか、国連本部に派遣している大使の判断を仰ごうということになった。ニューヨークから届いた電報には「キンタマ」と書いてあった。暗号か?と思い大臣連中が頭をひねったが、ちっとも解けない。すると、その場に通りかかった掃除のおじいさんがヒョイと覗いて、たちどころに、この意味を解いたという。その意味とは!!CMのあと、ではなく、
「協力はすれども、介入はせず」
だそうです。なんかこの話、聞いたことがある。出典はココだったのか!
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