新・ことば事情
5967「人が『ある』」
小津安二郎監督・原節子主演の『晩春』(昭和24年=1949年公開)を見ていたら、紀子に縁談を勧める友人がこう言います。
「いいひとあるんだけど。ほら、こないだアメリカから来た、野球の・・・ゲーリー・クーパー!(に似ている人)」
という台詞です。この中の、
「いい人ある」
に注目しました。
「いい人いる」
ではなく「ある」なのです。
同じ、小津安二郎監督の『秋刀魚の味』(昭和37年=1962年公開)でも、ヒロインの岩下志麻が、
「赤ちゃんのある人だっているわ」
というように、赤ちゃんが「いる」ではなく「ある」と言っていました。
この時代までは、「人」は「ある」という言い方が標準だったのでしょう。
それがいつのまにか、
「人=いる」「物=ある」
と使い分けられるようになりました。
この10年で目立つのは、事故のニュースで、
「けが人は、いませんでした」
という表現です。以前は、
「けが人は、ありませんでした」
と言っていましたが、もう完全に逆転しました。
2014年3月7日に書きかけたメモによると、
「2014年3月7日の早朝に、阪急十三駅の西側で、飲食店11棟を焼く火事がありました。その際に、『ケガ人の有無』に関して、各社のお昼のニュースでは、
NHKの『全国ニュース』では、
『けが人はありませんでした』
NHKの『関西ローカルニュース』では、
『けが人はいませんでした』
朝日放送のニュースでは、
『けが人はいませんでした』
でした。」
と書き付けています。ポイントはNHKの「全国のニュース」と「関西ローカル」で表現が違ったことですね。もしかしたら「関東」では「ありません」がまだ主流で、関西は「いません」が主流なのかもしれません。今度の用語懇談会で各車の状況を聞こうと思っています。
また、過去の「読売テレビ報道局」のニュース原稿の中での「けが人はありませんでした」と「けが人はいませんでした」の回数を調べてみたところ、以下のようになりました。
【ありません】【いません】
2004年 7 0 件
05 29 4
06 25 7
07 16 14
08 19 15
09 16 21
10 13 12
11 12 16
12 14 21
13 14 16
14 6 19
15 3 12
この問題に関しては、
「平成ことば事情3234 けが人はいない?ない?」
「平成ことば事情3838 けが人は『ありません』か?『いません』か?」
もお読みください。