新・ことば事情
5962「享年と行年」
永井荷風の『断腸亭日乗(上)』を読んでいて気になったのは、
「享年と行年」
の使い分けです。上巻では両方、出て来ます。
大正15年(1926)2月29日に、「黒田湖山」という人が病死した際には、
「享年四十九歳なり」
と「享年」を使い、「歳」も付けています。ふだん「ミヤネ屋」では、
「『享年』の『年』と『歳』は同じ意味で重複するから、『歳』は付けずに『享年49』とする」
ように指導しています。ただ、『広辞苑』は用例で「歳」を付けているんですけどね。
そもそも「享年」は、
「天から享(う)けた寿命」
という意味なので、
「平均年齢より若く亡くなった場合には、使わない」
ようにしています。きのう(1月20日)訃報が伝えられた、初代「遠山の金さん」こと中村梅之助さんの場合や、1月9日に亡くなった上方落語の桂春團治さんの場合は、亡くなった年齢が、
「85歳」
と、男性の平均寿命を上回っていたので、
「享年85」
を使いましたが。
話がそれましたが、『断腸亭日乗(上)』に、もう一つ出て来る表現は、
「行年(ぎょうねん)」
です。昭和2年(1927年)7月24日、「芥川龍之介」が自殺した新聞記事のことを記した場面では、
「行年(ぎょうねん)三十六歳なりといふ」
とあります。これは「新聞記事をそのまま写した」ので、おそらく新聞記事で「行年」を使っていたのでしょうね。「歳」も付いています。
こんな所にも注目して「下巻」も読みたいと思います。