新・ことば事情
5945「WADAの訳語2」
平成ことば事情5897「WADAの訳語」の続きです。
2015年12月に開かれた用語懇談会放送分科会で、この問題について質問しました。
『ロシアのドーピング問題で出て来る「WADA」=World Anti-Doping Agencyの日本語訳が、バラバラです。
(日本テレビ)世界反ドーピング機構(読売テレビも)
(NHK) 世界反ドーピング機構
(テレビ朝日)世界反ドーピング機関
(フジテレビ)世界反ドーピング機関
(TBS) 世界アンチドーピング機関
(テレビ東京)国際反ドーピング連盟
というように、
【1】「機構」か?「機関」か?「連盟」か?
【2】「反」か?「アンチ」か?
【3】「世界」か?「国際」か?
という3点で相違があります。
新聞は「読売・朝日・毎日・産経・日経」と「共同通信」まで(つまり、地方紙は全て)、「世界反ドーピング機関」
で統一されています。
また、「文部科学省」のサイトには、「世界アンチドーピング機構」と書かれています。(「アンチ」の後に「・」が入った「アンチ・ドーピング」という表記もあります)日本支部もあるようです。各社の「訳語を決定した理由」は何でしょうか?また「機関」と「機構」はどう区別するのでしょうか?ご教示ください。』
これに対する各社の回答は、
(日本テレビ)報道の担当者に聞けなかった・・・。
(NHK)日本の「JADA」が「機構」なので「WADA」についても「機構」にしている。「反ドーピング」と書いて、読みは「アンチドーピング」。
(テレビ朝日)「JADA」が「日本アンチドーピング機構」。JADAに電話で問い合わせたところ「WADAは『世界アンチドーピング機構』にしてほしい」と言われた。ということで、「機関」から「機構」に変更して「世界反ドーピング機構」とした。当初は混乱していた。
(朝日放送)ラジオは時事通信に準拠なので「機関」を使って「世界反ドーピング機関」。
(テレビ朝日)英語の「Organization」=「機構」が原則。これから言うと、今回の「Agency」は「機構」ではないのだが、大人の事情で(JADAから「WADAは『世界アンチドーピング機構』にしてほしい」と言われたから)「機構」に。また、国連の専門機関は全て「機関」、それ以外は「機構」という分類がある。
(フジテレビ)外信部に聞いたところ、共同通信準拠で「世界ドーピング機関」。
(関西テレビ)フジテレビ準拠。しかし私も「JADA」に電話したところ、「日本アンチドーピング"機構"」なので「WADA」も「機構」にしてほしいと言われた。
(共同通信)1999年にこの組織が設立されたときから「機関」でやっている。その際に一生懸命検討したので、変更はない。「Organization」「Agency」の日本語訳は、混在している。
(TBS)「世界アンチドーピング機関」。「反」は、音が同じ「汎」と間違う恐れもある。「アンチドーピング」で1つの言葉と考える(NHKと同じ)。最初は「WADA」を「ダブリュー・エイ・ディー・エイ」と読んでいたが、途中から他社に合わせて「ワダ」となった。いまのところ「機関」でやっている。
(MBS)テレビはTBSと同じ。ラジオは共同通信準拠。
(テレビ東京)国際部に聞いたところ、共同通信に準拠して「世界反ドーピング機関」だとのこと。原稿検索で1例だけ「アンチ」というのがあった。「反」と書かれていても「アンチ」と読む。
(テレビ大阪)テレビ東京と同じ。
(読売新聞)訳語は「Organization=機構」「Agency=機関」が原則だが、日本の独立行政法人はイギリスの「Agency制度」がお手本なので、日本でできた独立行政法人の名前は「機構」としながら、その英語の名前を「Agency」にしたことによって、「ねじれ」が生じたのではないか?つまり外国の組織の「Agency」の日本語訳は「機関」だが、日本語で「機構」とついている組織の英訳は「Agency」になってしまったのでは?
ちなみに「WADA」の日本語訳「世界反ドーピング機関」は日本で決めた。組織の名前はややこしくて、以下のように同じ「スケート」の団体でも世界と日本で違うことがある。
*日本スケート連盟=JSF(Japan Skating Federation)
*世界スケート連合=ISU(International Skating Union)
で、英語もその訳も違うというケースもある。
ということでした。
その後、あまり見なくなったと思ったら、年が明けてきょう(1月16日)、日本テレビの『スッキリ!!』の中のニュースコーナーで、矢島アナウンサーが、
「WADA(ワダ)・世界反ドーピング機関」
と言っているではありませんか!去年11月の段階で日本テレビは、
「世界反ドーピング機構」
と「機構」だったのに、いつの間に「機関」に?「どちらでもよい」という立場なのか?わかりませんが・・・。「変更した」という連絡はありませんでした。
(追記)
7月25日、リオ五輪を10日前に控え、ここのところロシアのドーピング問題が大きな話題になっています。ロシアの陸上選手は、スポーツ仲裁裁判所の決定で「出場禁止」になってしまいましたが。それ以外の種目の選手について、結局IOCは、
「ロシア選手の出場を排除するものではない」
として、各競技ごとの教会の判断にゆだねる、まあ"丸投げ"みたいな形になりました。
このニュースの関連で当然よく出て来る「WADA」ですが、ことし1月には、
「世界反ドーピング機関」
としたと思われた日本テレビは、その後はどうも元通りの、
「世界反ドーピング機構」
を使っています。きょうの夕方の「every.」も「機構」でした。
どうも1月のは「間違えただけ」だったようです。
「ミヤネ屋」も、このところは、
「世界反ドーピング機構」
にしています。
(2016、7、25)