新・ことば事情
5938「バットを振り込む」
去年(2015年)10月に開かれた関西地区新聞用語懇談会で、
「振り込むのはバットか」
というテーマが出されました。それによると、
『西武・木村文紀外野手が、一日警察署長を務め、「振り込め詐欺撲滅」を呼びかけました。その時の記事で、「お金は振り込まなかったが、バットはとことん振り込む」という表現がありましたが、「バットを振り込む」が、落ち着かないのでは、という意見がありました。過去の記事では、「休日も返上してバットを振り込む毎日」など、いくつか使用例もあるようです。三省堂国語辞典(第7版)では、4番目に「<野球で>素振りを繰り返し練習する」と出てきますが、他の辞書では見当たらないようです。振り込むのは、「お金」か「マージャンパイ」であって、この場合は「徹底的に素振りをする」、「納得いくまでスイングする」と言い換えるほうが自然だという声もあります。許容すべき表現、あるいはすでに定着している表現でしょうか。』
というものです。
これに対する各社の回答は、
(朝日新聞)違和感がある。スポーツ面でなじみのある人には、違和感がないかもしれないが。
(毎日新聞)イメージの問題だろう。
(ytv)「走り込む」などの「込む」を「バットを振る」(振って練習する)ことに使った例だが、違和感あり。「バットは とことん振る」などにする。以前、マラソンランナーの紹介で、「駆け出しのランナーだったモロッコ出身のハヌーシは」とあって、思わず笑ってしまったことがある。(2002年4月15日付『読売新聞・夕刊』、あの結城和歌子記者の署名記事。)「走り込む」「打ち込む」「絞り込む」などの「~込む」は「十分に行う」という意味の補助動詞的用法。それに対して「お金を振り込む」のほうは、「振り込む」で、もう「一語」になっている。その「二重の意味(ダブル・ミーニング)」が、誤解を生みやすいのだろう。
(ABC)「バットを振り込む」は普通に使っていて、違和感がなかった。
といったところでした。私は、個人的にはちょっと違和感がありますけどねえ。
「振り込め詐欺」で「バット」が振り込まれたら、犯人も驚くでしょうねえ。
(追記)
2016年11月25日の日本テレビ「ニュースZERO」のスポーツコーナーで、ジャイアンツの特集をしていました。その中で男性ナレーターが、
「ひたすらバットを振り込む」
という原稿を読んでいました。実際に使われているんだなあ。これまで気付きませんでした。
(2016、11、28)