新・ことば事情
5933「悲喜こもごも」
「『悲喜こもごも』の使い方が違いますね」
というご指摘が、視聴者センターに入りました。きょう(25日)の放送の「マルチが画面」の、
「クリスマスイブ 悲喜こもごも 聖夜に"売買される"男女の思い出」
と、宮根さんのコメント、
「さて、昨日はクリスマスイブということで、楽しい思い出を作った方もたくさんおられると思いますが、そんな日に行われました男女の思い出が売買される悲喜こもごもの現場がありますのでご覧ください」
に対してです。視聴者の方によると、
「『悲喜こもごも』は『一人の人生』を振り返っていろんなことがあったなというときに使うと思います。喜ぶ人や悲しむ人など様々という意味ではないと思います。」
とのこと。
視聴者センターでも、ネットで調べてくれて、それによると、
★『デジタル大辞泉』「【悲喜(ひき)交交(こもごも)】 ...悲しいこととうれしいことを、代わる代わる味わうこと。「―いたる」【補説】一人の人間が喜びと悲しみを味わうことであり、「悲喜交々の当落発表」のように「喜ぶ人と悲しむ人が入り乱れる」の意で使うのは誤り」
と「誤り」とする辞書も多いと思います。本来の意味は「1人の中で」です。
しかし、以下の辞書の「句例」では、
★『新明解四字熟語辞典』:「ひき-こもごも【悲喜交交】...悲喜交交 意味 悲しみと喜びを、代わる代わる味わうこと。また、悲しみと喜びが入り交じっていること。▽一般に「交交」は現在ではひらがなで表記することが多い。[句例] ◎悲喜交々の合格発表◎悲喜交々至る[用例]ここでは「風人」と「風流男たわれお」を対立させ、世間の酸いも甘いも知りつくして、いまは悠々と自得している風人をして、好色の風流男の世間や家名や財や、また遊びに執着して悲喜交々の日を送っている心の悩みを解かしめている。<唐木順三・日本人の心の歴史>
と、「悲喜交々の合格発表」が挙げられています。
さらに私が調べた『NHKことばのハンドブック・第2版』には、
★「悲喜こもごも」=入学試験合格発表関係のニュースで「~悲喜こもごもの風景でした」と表現するのは適切ではない。「悲喜こもごも」は1人の人の心境について言う場合に使う。「喜ぶ人もあり、さまざまな情景でした」などとすればよい。なお、こういう古めかしい成句はなるべく使わない。」
とあります。NHKは「間違い」という立場ですね。
しかし、新しい言葉をいち早く採用することで知られる『三省堂国語辞典・第7版』では、
★「悲喜こもごも」=(1)(ひとりの人に)かなしみとよろこびが、いれかわりあらわれること。(例)悲喜こもごもいたる。
(2)(俗)悲しむ人とよろこぶ人がまざっているようす。(例)悲喜こもごもの合格発表風景」
として2番目の意味で「俗語」として、載せています。
今回、私は事前に気付いていて「三省堂国語辞典」の立場で「許容」と判断しました。電話をかけてきた視聴者の方は、「従来の規範」の立場の方だったようですね。
一応、「従来の使い方」を知っておくことは重要です。