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『道浦TIME』

新・ことば事情

5918「『を輩出』か?『が輩出』か?」

 

先日の「新聞用語懇談会・放送分科会」の議題として、毎日放送の委員から、次のようなものが出されました。

『「優れた人材が次々と世に出る」という意味である「輩出」は、本来「ノーベル賞受賞者が輩出した○○大学」のように『自動詞』で使うが、最近『他動詞』として使われることが見受けられる。確かに『他動詞』としての使用を容認して載せている辞書もあるし、新聞協会の『新聞用語集2007年版』でも「有名な選手を輩出した学校」との事例が採択されている。毎日放送では、『他動詞』としての使用を認めていないが、『他動詞』としての事例を『新聞用語集』に掲載した経緯などをご存じなら教えてほしい。

<ご参考>

*『週刊新潮』新聞広告

『「北島康介」「田中理恵」「内村航平」

 五輪花形選手が輩出した「日体大」のカラ授業』(2014227日号)

『朝日新聞』『アエラ』本文事例

・年金局といえば、旧厚生省で多くの次官が輩出した本流だ。(201546号)

・ノーベル賞受賞者が輩出している名門・イタリア国立~大学(20154.13号)』

 

いやあ、気付かなかったなあ。「を輩出している」だと思っていました。

グ-グル検索では(9月14日)

「が輩出した」= 6万4400件

「が輩出された」=4万4600件

「を輩出した」=44万8000件

と、やはり「を輩出した」が「が輩出した」の「7倍ほど」使われています。「が輩出された」は「が」を使っていますが、意味上は「を輩出した」と同じですよね?

「した」「された」を取ったものでも、

「が輩出」=22万2000件

「を輩出」=82万3000件

と、「4倍ほど」「を輩出」が使われています。

用語懇談会の放送分科会では、

・『2007年版用語集』で「有名な選手を輩出した学校」との事例を採択したのは、すでに世の中では「他動詞」も認めているからではないか。先日読んだ井沢元彦の本にも「○○を輩出」(=他動詞)は出て来た。『明鏡国語辞典』も「自動詞・他動詞」両方を載せている。

・ここ5年の読売新聞の記事データを検索したが、本来の使い方である「自動詞」は20例しかなかったが、「他動詞」は500例近くあった。国語辞典では、昭和27年に出た『明解国語辞典』では「自動詞のみ」だが、昭和35年に出た『三省堂国語辞典』ではすでに「自動詞・他動詞」両方載っている。福沢諭吉も「不徳の教師を輩出している」と「他動詞」を使っている。この「輩出」の使い方で「誤り」とされるのは、「一人しか出ていないのに「輩出」とするケース。「たくさん出していること」が肝要。『朝日新聞』は誤りの例として「『一人輩出した』は間違い。『一人出した』とする」と載せている。また「本来は自動詞だが、最近は他動詞でも使われる」と記されている。辞書に載っているかどうかという基準もあるが、それで言うと『広辞苑』は、最近よく使われる「激励する」意味での「檄を飛ばす」を認めているが、新聞各社は認めていない。新聞は、世間の言葉の使われ方からは、一歩、下がってやっていく方針だ」

という意見が出ました。

(2015、12、8)

2015年12月 8日 21:25 | コメント (0)