新・ことば事情
5897「WADAの訳語」
ロシアの陸上選手たちが国ぐるみでドーピングしていた疑いが強いと指摘されている問題で、よく出て来る国際団体名、
「WADA」=World Anti-Doping Agency
の日本語訳が、バラバラです。日本テレビでは、
「世界反ドーピング機構」
という訳語を使っているので、読売テレビも、それに倣っています。
他局を見ると、
(NHK) 世界反ドーピング機構
(テレビ朝日)世界反ドーピング機関
(フジテレビ)世界反ドーピング機関
(TBS) 世界アンチドーピング機関
(テレビ東京)国際反ドーピング連盟
というように、
(1)「機構」か?「機関」か?「連盟」か?
(2)「反」か?「アンチ」か?
(3)「世界」か?「国際」か?
という3点で相違があります。
新聞はどうかというと、なんと「読売・朝日・毎日・産経・日経」に「共同通信」まで(つまり、地方紙は全て)全部、
「世界反ドーピング機関」
なのです。
(1) の「機構」か?「機関」か?「連盟」か?については、
「Agency」
の訳語をどうするかということですよね。「機関」というとよく出て来る、
「世界保健機関」=WHO
「世界貿易機関」=WTO
は、「機関」に当たる単語は、いずれも、
「Organization」
です。そこから考えると、「WADA」の場合は「Agency」なので、「機関」にするのはちょっとなあ・・・という気もしますね。
それにしても、TBSはなんで「反」を「アンチ」と「英語そのまま」にしているのかな?と思い、もう少し調べて見ると、「文部科学省」のサイトに、
「世界アンチドーピング機構」
と書かれているではないですか!日本支部もあるようです。だから、「アンチ」をそのままにしたのかな?逆に、NHKと日本テレビが「機関」ではなく「機構」にしたのも、これ(文科省)に従ったのではないか?ただ、「アンチ」は日本語としては、こなれないし文字数も多くなるので、そこは「反」にしたのではないかな?という気がします。
読売新聞社のスタイルブックには、アルファベットの略語の日本語訳が載っているのですが、それによると、
「WADA」=「世界反ドーピング機関」
ですが、同じく「Agency」が付く団体・組織の日本語訳は、
「CIA」=中央情報局(米)(Central Intelligence Agency)
「DIA」=国防情報局(米)(Defence Intelligence Agency)
「EPA」=環境保護局(米)(Environment Protection Agency)
「ESA」=欧州宇宙機関(European Space Agency)
「FEMA」=連邦緊急事態管理局(米)(Federal Emergency Management Agency)
「IAEA」=国際原子力機関(国連)(International Atomic Energy Agency)
「IEA」=国際エネルギー機関(International Energy Agency)
「IPA」=情報処理推進機構(Information-technology Promotion Agency)
「JADA」=日本アンチ・ドーピング機構(Japn Anti-doping Agency)
「JAXA」=宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency ・ジャクサ)
「JICA」=国際協力機構(Japan International Cooperation Agency)
「JSAA」=日本スポーツ仲裁機構(Japan Sports Arbitration Agency)
「JST」=科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency)
「MIGA」=多国間投資保証機関(Multilateral Investment Guarantee Agency)
「NEA」=(OECDの)原子力機関(Nuclear Energy Agency)
「NSA」=国家安全保障局(米)(National Security Agency)
「PMDA」=医薬品医療機器総合機構(Pharmaceutical Medical Devices Agency)
「USAID」=米国際開発庁(United States Agency for International Development)
「WAM」=福祉医療機構(Welfare And Medical Service Agency)
と、「局」=5、「庁」=1、「機構」=8、「機関」=5で、「機構」のほうが多いですね。また、「局」と「庁」は全て「アメリカの政府の下部組織」でした。
こうやって見てくると、傾向としては、
*「連盟」「協会」=Federation、Association、Confederation
*「連合」=Union
*「委員会」=Committee、Commission、Board
*「評議会」「会議」=Council
*「機関」=Organization
*「機構」=Organization、Institute
*「○○局」=Agency 、Administration
のように思えます。
「Organization」で「機構」と訳すものは、「ルパン三世」の「銭形警部」でおなじみの、
「ICPO」=国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization・インターポール)
があるほか、
「ISO」=国際標準化機構(International Organization for Standardization)
もおなじみ。そして、
「JARO」=日本広告審査機構(Japan Advertising Review Organization)
「JETRO」=日本貿易振興機構・ジェトロ(Japan External Trade Organization)
「JGTO」=日本ゴルフツアー機構(Japn Golf Tour Organization)
「KEDO」=朝鮮半島エネルギー開発機構(Korean Peninsula Energy Development Organization)
「NATO」=北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)
「OAPEC」=アラブ石油輸出国機構(Organization of Arab Petroleum Exporting Countries)
「OECD」=経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development)
「OPEC」=石油輸出国機構(Organization of Petroleum Exporting Countries)
など、古くから知られた組織(団体)のように感じました。
そう言えば、「WHO」も昔は「世界保健機構」と言っていたと思うのに、いつの頃からか「世界保健機関」と「機関」に変わりました。いまだに「機構」と訳している団体は、結構古くから名を知られたものばかりの気がします。流れとしては、
「機構」→「機関」
なのではないでしょうか?特に「国連」の「機関」は、昔は「機構」と言っていたのが「機関」に変わったのではないか?それ以外の団体は変わらないので、「機関」と「機構」が混在してしまっているのではないでしょうか?
また、「読売スタイルブック2014」では、日本の組織「JADA」を、
「日本アンチ・ドーピング機構」
として、「アンチ」を採用しています。「WADA」は「反」なのに。なぜでしょうねえ???