新・読書日記 2015_158
『あぶない一神教』(橋爪大三郎、佐藤優、小学館新書:2015、10、6)
現代日本で一番の博覧強記の論客は、この佐藤優だと思う。その佐藤と、碩学・橋爪大三郎の対談のテーマは「宗教」。まさに佐藤の一番得意な分野である。(同志社の神学部を出てますからね。)
表紙カバーには、
「なぜ日本は世界で孤立するのか?キリスト教徒23億人。イスラム教徒16億人。彼らのルールを知れば すべてわかる」
「世界の『混迷』を解き明かす最強の入門書」
とある。日本人も少しはイスラム教のことを知らないと、危ない時代である。少しかじってみた。抜粋してみる。
*(佐藤)「いま私が懸念しているのが、『イスラム国』が権威的な普遍主義による支配を目指しているということです。力によって実現しようとする普遍主義は、グローバリゼーションや新自由主義と同様、それ以外の文化圏の宗教、思想、芸術などとの軋轢をもたらします。ところが人類には一定の数、普遍的で単一の権威で支配された方がいいと考える人たちが存在する。すでにはじまっているのは、そんな人々との戦いなのです。」(77ページ)
*(橋爪)「近代化に直面したとき、キリスト教社会では何が起きたか。ヨーロッパではナショナリズムが生まれました。(中略)教会の都合とは別に、現実政治のロジックで動くことができるキリスト教社会だから起こりえたことです。これがイスラム世界には起こらない。あるいは起こりにくいのです。」(83ページ)
*(佐藤)「キリスト教が唯一神教でないのは確かです。父、神の子イエス、そして聖霊という三つの現れ方をする。一神教のルールブックがあのなら、反則技です。」(197ページ)
*(橋爪)「生産設備でない教会の建物は、完全な消費(浪費)にあたる。貯蓄できずに経済余剰がすべて消費されるので、拡大再生産ができない。経済発展が全くできない社会です。」
(佐藤)「貯蓄の習慣がないから、みんな気前よくおごる。あとはお祭りで一気に金を使う。中南米がそうです。ブラジルは世界でもっともカトリックの人口が多い国ですから、日常的に大変な消費をする。」(216ページ)
*(佐藤)「ラマダン月の日没後にはじめて食べる食事をイフタールといいます。あれは豪勢です。実はラマダン月は断食しているはずなのに食料消費が倍近くになるんですよ。」(218ページ)
*(佐藤)「(カトリックでは)労働は男の罰で、女の罰は出産です。いずれにしろ労働はだという考えは、キリスト教の根っこにある。」
(橋爪)「労働は罰なので、労働しないほうが偉いことになる。罪深い人間だけが働けばよいという、身分制につながる。」
(佐藤)「労働価値説は、労働量を数値化しなければ出てこない考え方です。そして、労働の数値として計るには、貨幣経済と賃労働が成立していなければなりません。」(222ページ)
(橋爪)「貨幣経済と所有権の絶対は、市場経済の成立には不可欠です。」(223ページ)
(橋爪)「ここで重要なのは、キリスト教ははじめ、利潤追求の資本主義をつくる予定では全然なかったこと。むしろその反対だった。ところが、キリスト教のなかにある要素を順番につなげてステップを踏んでいくと、いつの間にか予定にない、資本主義がうまれてしまった。」(228ページ)
*(橋爪)「最悪なのは国家と資本主義が二人三脚になること。国家と経済は、しっかり分かれているべきなのです。」
(佐藤)「国家と経済が一体となると、政治とビジネス両方に手を出す人間が、絶大な権力を手に入れますからね。」
(橋爪)「スターリン主義がそうです。それからナチス。そしていまの中国と、日本も入れてもいいかもしれない。」(235ページ)
(佐藤)「日本でいえば一九四○年体制がまさにそうでした。」
(橋爪)「国は税金を取り、軍を持っています。それと資本主義経済が一体化したら、戦争に突き進む危険性が一気に高まる。国家と資本主義はぜったいに分離しないといけない。」
(佐藤)「私は安倍政権の問題は、そこだと思っているんです。」(236ページ)
*(橋爪)「国民が理性的な物語を共有できなくなったとき、政治エリートの暴走が始まるのです。」(263-264ページ)
*(佐藤)「大陸から隔絶された島国で暮らす日本人にとって、いま何が足りないのか。目に見えない知を論理的に突き詰めて、超越的な世界を知ろうとする態度――つまり一神教に対する理解だと思うのです。」(266ページ)
政治家に読んでほしい本です。