新・ことば事情
5893「土下座」
皆さんは、
「土下座」
とは、どのような「動作」であると説明しますか?
『広辞苑』(第6版)を引くと、
「相手に恭順の意を表するため、地上に跪(ひざまず)いて礼をすること。」
とあります。『三省堂国語辞典』(第7版)を引くと、
「地上にひざまずいて、深く、おじぎをすること」
とあります。何が言いたいかというと、
「『土下座』は『土』という字が入っているから、『地面』(=家の外)で行うものであり、畳の上や屋内・室内など土足では入らない場所の際は『土下座』とは言わない」
という意見があるのですが、本当にそうなのか?という問題です。
『広辞苑』も『三省堂国語辞典』も、
「地上に」
という風に「場所」を示しています。『三国』で「地上」を引くと、
「地面の上」
とあります。『広辞苑』で「地上」を引くと、
「(1)地面のうえ (2)この世。現世」
とあります。ともに「地面」ですから、まあ「外」でしょうね。「畳の上での土下座」は認めない立場と考えていいのではないでしょうか?
他の辞書はどうか?手許にある辞書を引いてみましょう。
*『新明解国語辞典』(第7版)
「ひざまずき地面に頭をつけるようにして礼をすること。(昔は貴人に対する拝礼として行なわれた。現在は陳謝・懇願の印として行われることがある)
*『岩波国語辞典』(第7版)
「ひれ伏して、地面に頭を着けて行う例。▽昔、貴人の通行時に行い、今も重大過失をわびる時などにこの形をとることがある。」
*『新潮現代国語辞典』(第2版)
「(1)昔、貴人に対して地面にひざまずいてした例。(2)両手をついて頭をさげること。」
*『明鏡国語辞典』
「謝罪の気持ちなどを表すために、地面や床の上にひざまずいて深く頭をさげること。」
*『デジタル大辞泉』
「(1)昔、貴人の通行の際に、ひざまずいて額を低く地面にすりつけて礼をしたこと。(2)申し訳ないという気持ちを表すために、地面や床にひざまずいて謝ること。」
*『精選版日本国語大辞典』
「(1)大名や貴人などが通行する際、一般の人が路上にひざまずいて平伏すること。(2)地面や床にひざまずいて謝罪の気持を表すこと。」
ということで、そもそも「土下座」は、
「昔の大名行列などに対する『土下座』はもちろん、地面に頭(額)を着けて平伏する形」
だったのですが、現在、行われているのは、それとほぼ同じ形で、
「謝罪や懇願の気持ちを込めて、地面や床に頭をすりつけ平伏すること」
のようです。大きな辞書では、意味をこの2つに分けていますが、中型の辞書では意味は1つだけ。そこに「地面」だけでなく「床」と入れるかどうか、という問題ですね。
うーん、入れたほうがいいんじゃないでしょうかね?そう感じました。
その後、過去の新聞用語懇談会の記録を見ていたら、2006年11月に松山市内で開かれた合同総会の席で、この話題が出ていました。それによると、TBSの委員から、
「自殺した子どもの家に行った教育長や校長などが、畳の部屋で『土下座』したという表現を使った社があったが、本来の『土下座』は、地べたにひれ伏し恭順の意を示すことにある。どの程度なら『土下座』という表現を使ってもよいか?」
という質問が出て、
「相手と土下座をする人との位置関係で、相手の方が(物理的に)上にいる必要があり、畳の上では土下座したことにはならないのではないか」
「基本的には、『土足でいる場所』で、ひれ伏して頭を地面(床)につけるのが土下座である」
などの意見が出たとのことでした。すっかり忘れていました。