新・ことば事情
5837『ボウガン』か?『ボーガン』か?2」
平成ことば事情3931で書いた「『ボウガン』か?『ボーガン』か?」の続編です。
2015年4月の新聞用語懇談会放送分科会で、フジテレビの委員から、「クロスボウ」「ボーガン」「ボウガン」の使い分けにいて、
『男性が矢で撃たれたというニュースの中で撃ったものの表記が、社によって「ボーガン」「ボウガン」「クロスボウ」に分かれています。確か「ボウガン」は「登録商標」ということで、弊社では2001~02年頃までは「クロスボウ」を使用していましたが、現在では「ボーガン」を使用しています。何かきっかけがあったと思うのですが、古いことで記録が残っていません。各社どちらを使用されているのか、またその経緯をご存じの方がいらしたら教えてください。』
と質問が出ました。その際の各社の回答は、
(NHK)「ボウガン」という名前は、そもそも日本で作られた。「ボウガン社」の商標権は、今は切れているので使える。NHKでは「クロスボウ」「ボーガン」両方出ている。
(TBS)最初は「洋弓銃」としていたが、2008年に「ボウガン」が特定商品名でなくなったので「洋弓銃・ボウガン」として、その後「いわゆる弓型の銃・ボウガン」そして「ボウガン」となった。
(NTV)「クロスボウ」
(テレビ朝日)過去5年の原稿では「クロスボウ」と「ボウガン」が拮抗しているが、少し「クロスボウ」が多い。2002年11月、当時「ボウガン」は商標名のリストに載っていたが、ボウガン社がそれほど主張しなかったので「ボウガン」を使おうか?という話も出たが、結局その話もここ10年忘れられて、「クロスボウ」も使われている状態。
(テレビ東京)過去10年の原稿を見たが「ボーガン」で統一されている。
(共同通信)「ボーガン」にしている。「クロスボウ」は出て来ない。2006年の「記者ハンドブック第10版」では「×ボーガン→○洋弓銃」としていたが、「ボウガン」が特定商品名ではなくなったので「ボーガン」に直した。なお、「スタンガン」も、当初は「高圧電流銃」だったが、その後「スタンガン」にした。
(ytv)日テレに倣って「クロスボウ」。2010年に奈良公園で、シカが矢で撃たれたことがあった。そのときも「クロスボウ」だった。日本語表記だと「石弓」だ。これは「ウィリアム・テル」が使っていたとされる物と同じ形。
(読売新聞・関根氏)以前は「クロスボウ」。というのも「ボウガン」が商標だったから。2000年代に解除されて「ボウガン」も使うようになって、今はどちらも使っている。他社で「クロスボウのような"矢"で撃たれた」という表現があったが、これは「矢」ではなく「弓」だろう(刺さったのは「矢」)。
というものでした。
あれから3か月、8月12日の午前2時45分頃、愛知県の武豊町で、31歳の新聞配達の男性が、黒の目出し帽を被った男に襲われて重傷を負うという事件が起きました。
その際に被害者の男性が、
「ボウガンのようなもので撃たれた」
と証言しています。そのニュースを報じた日本テレビ(読売テレビ・「ミヤネ屋」)では、
「ボウガン」
と表記しました。テレビ朝日も、
「ボウガン」
でした。新聞(8月13日付)を見てみると、
(読売新聞)ボウガン
(毎日新聞)ボーガン(洋弓銃)
(産経新聞)ボーガン
(スポーツ報知)ボーガン
(スポニチ)ボーガン
(日刊スポーツ)ボーガン
でした。日本テレビは、ことし4月は「クロスボウ」でしたが、4か月たったら「ボウガン」。たぶん、
「どちらも可」
で、今回は被害に遭った男性が、
「ボウガン」
と言っている(警察発表だと思いますが。中京テレビの取材)ので、それに従ったのだと思います。