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『道浦TIME』

新・読書日記 2015_110

『大林宣彦の体験的仕事論~人生を豊かに生き抜くための哲学と技術』(語り・大林宣彦、構成・中川右介、PHP新書:2015、7、29)

 

この本を構成した中川右介さんから送って頂きました。ありがとうございます。

全部で370ページ近くあり、6章プラス巻末対談までついた分厚い本だが、基本的にインタビューの語りで構成されているので、読みやすい。80ページぐらいまで(つまり第1章)は、一気に読んでしまいました。

大林監督と言えば「尾道3部作」のイメージが強いが、大林監督は、実は地元・尾道からは当初、嫌われていたという。なぜならば監督は、「昔のままの風情を残している尾道」に「尾道の良さ」を求めたのに対して、尾道の町の人たちは「映画の舞台になることで、町が繁栄・発展すること」を望んでいたから。しかし、のちに「いかに昔のままで残ることに価値があるか」に、皆、気付いたという。

趣味の8ミリ映画から始まり、コマーシャルフィルムを取るようになり、そこから商業映画に。商業映画の監督になった時には、もう39歳になっていた・・・。そして角川映画と大林監督の出会い・付き合い、全てはつながっている。迷った時には16歳ぐらいの自分に戻る、16歳の自分だったらどう思うだろうか?を原点にする。「ベテランの16歳」という言葉は、「初心、忘るべからず」ってことですね。

「トラブルに遭ったら、チャンスが来たと考える」なんていうのは、ビジネス論っぽいな。

一応、これは「ビジネス書」なんだそうですが。読んでいると、本当に大林監督に会って話を聞いている、インタビューをしているような気持ちになりますね。

「前例のないことだけをやる」という大林監督、映画会社の枠を超えて映画を撮る、東宝の社員でない大林監督が、東宝映画を撮る場面(73~74ページ)で、映画に使う「タオル」と「手拭い」では「持ち場が違う」という話は、面白かったですね。「タオル」は「小道具部」で、「手拭い」は「衣装部」だって。縦割りの職業集団、プロの集まりが一緒になって創っているという感じが分かったけど、これでは図体がでかくなってしまって、動かすのが大変だと思いましたね。ある意味「どっちも、まとめてやればいいじゃん」という合理主義は、受け入れられないだろうなって。ちょっと、わかります。

また、黒澤明監督の『用心棒』のときの「フォーカスマン」だった木村大作さん(のちの名カメラマンで『剱岳・点の記』の監督)が、ピントを合わせる名人で、木村さんがフォーカスを合わせたら、一発で黒澤監督が「OK!」を出し、セットを壊しちゃったという。ある種のバクチだと思うけど、そこまで信頼している(信頼される実力がある)というのは、スゴイなあと思うエピソードでしたね。リハと全く同じ動きができる(する)三船敏郎も凄いけど。

大林監督の作品で、まだ見ていない物(の方が多いと思うが)、「HOUSE/ハウス」や「野のなななのか」「なごり雪」「この空の花~長岡花火物語」も「見たい!」と思いました。「時をかける処女」じゃねーや「時をかける少女」も見たい!(昔、見たとは思うが→これを書いた日に、借りて来て見ました!こんな映画だったのか。筒井康隆の原作は、小学校の時に読んでいたけど。時代を感じさせる映像部分もあったし、岸部一徳や根岸季衣が若い!尾美としのりは、全然変わらない。当時の原田知世って、今の剛力彩芽みたい!尾道の町の魅力全面PRとも言うべきロケじゃないか!)福永武彦の『草の花』も、たぶん高校の頃に読んだけど、また、読んでみようかな。

ここで、いつものように「校閲チェック」。297ページ後ろから6行目、

「美智子さん-― 本音は美智子様なんでしょうけど、僕は親しみをこめて美智子さん」

という「本音は」はというの、「本当は」の誤植では?

それと、342ページの8行目の、

「意志を継いで」

の「意志」も「遺志」ですよね。

最後に、346ページの大林監督の言葉で締めましょう。

「『プラカード』は『正義』を主張しますが、『エッセイ』は『正気』を語るもの。日本の『正義』とアメリカの『正義』が戦ったのがあの戦争で、終われば勝ったほうの『正義』が正しかったってのが戦争。だから『敗戦少年』の僕など『正義』より『正気』を信じます。世界中の人が『正気』になれば、世界は平和になると。』


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(2015、7、27読了)

2015年8月15日 12:29 | コメント (0)