新・読書日記 2015_104
『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる~日本人への警告』(エマニュエル・トッド:堀茂樹・訳、文春新書:2015、5、20第1刷・2015、6、3第5刷)
過激なタイトルのインタビュー集。『帝国以後』で知られるフランス人の人口学者・歴史家であるエマニュエル・トッド氏への、2011年11月から2014年8月までのインタビューを集めたもの。雑誌の特集記事のようで読みやすい。
要約すると、現在のヨーロッパは「EU=ドイツの支配」となっている。というのも、「EU」は「ドイツ」の論理で運営されているということ。そして、「EU」内部の勢力分布は、
「ドイツ」「ドイツ圏」「自主的ドイツへの隷属」「ロシア嫌いの衛星国」「事実上のドイツ支配圏」「EUからの離脱途上」「EUへの併合途上」「無法地帯」
に分けられるという。これは、口絵の地図も見ると、きれいに色分けされていて、わかりやすい。
そもそもヨーロッパ全体が一つの文化圏ではない上、「人と物の自由な行き来」が出来ることにしたことで、一つに国の中にいろんな国の人たちが入ってきてしまい、それによって経済的統一が難しい面もあると。「単一通貨」というのは理想ではあるが、やはり無理があるのだと。また、ウクライナ問題は実はロシア問題ではなく、ドイツの問題なのだという視点で話が進む。そして、驚きだったのは、
「今やフランス(オランド大統領)は、ドイツのフランス支局長に過ぎない」
というような表現だった、これは「著者の母国」であるからこそ、趙辛口の表現をしたのだとは思うが。
この本を読んでから、例の「ギリシャの問題」を見ていたら、本当にメルケル首相(ドイツ)がEU(経済面=ユーロ)を仕切っているのだなということ、オランド大統領が間に入ったとはいえ、メルケルに比べると力が弱いなあということなども見て取れて、大変参考になった一冊であった。
その前に読んだ6月28日付「日経新聞」の「経済論壇から」の「ギリシャ問題の本質は」も、大変興味深い記事だった。ここで、東京大学の植田健一准教授が6月17日付の「日経新聞」の「経済教室」で述べた「ギリシャ問題の3つの捉え方」を紹介していた。その3つとは、
(1) ドイツ人およびそれ以北の国の人は、借りた金は返すべきだと、典型的な金融契約論に基づく正解を唱える。
(2) ギリシャ人および一部南欧の人は、返せないほどの金を貸す方が悪いと言う。
(3) フランス人および一部南欧の人は、ドイツ人の主張は正しいし、ギリシャ人の不満もわかるが、ギリシャにEUから出て行かれては困るとの立場で、ドイツが容認する範囲でギリシャをつなぎとめる策を考える。国際金融論におけるマクロ複数均衡問題との捉え方。
であり、植田准教授は「貸し手の権利を尊重しつつも、返せないものは返さなくて良いという過重債務問題を取り入れた金融契約論に基づけば、貸し手の権利を中程度に守るべきだとなる。国家債務の上限と過重債務削減のメカニズムの導入に期待する」と述べる。
また、国際基督教大学の岩井克人客員教授は『中央公論』7月号で「人工的に作られたユーロは、EU加盟各国の独立性を重んじながら、経済的な不均衡がある状態では、その矛盾が永久に続くはずだ」と論じているという。各国間の景気や発展の不均衡は、「通貨」では調整できないと言うのだ。なるほど。このあたり「ユーロの矛盾・限界」は、トッド氏と同じ意見ですね。
それと、やはり「ドイツ」と言えば「宗教改革」。「宗教改革」と言えば「カルビン=カルビニズム」は、「貯蓄」を尊ぶ。その精神と、南欧の「貸す方が悪い」という生き方は、どう考えても相容れない。
奇しくも、けさ(7月21日)の「読売新聞」で、ギリシャの金融支援協議を検証していましたが、その記事の中で、ギリシャのバルファキス前財務相が、
「破綻していた国に、史上最大の融資を行ったことは人道に対する犯罪だ」
などと挑発的な発言を繰り返していたと記されていました。うーむ、植田准教授の言うとおりだ。また、ギリシャ側は、
「ドイツも、こんなに金を貸しているんだから、EU(ユーロ体制)から出て行けとまでは言わないだろう」
という「甘え」があると思うが、読売新聞の記事によると、堪忍袋の緒が切れかかっている、ドイツのショイブレ財務相が、今月に入ってから、
「ギリシャの一時的ユーロからの離脱」
も切り出して来たことを受けて、ギリシャ側も、
「お、ドイツは本気で俺たち(ギリシャ)を追い出しにかかるかも・・・」
と危機感を覚えたようである。本当に国際関係は、ややこしい。
また、この本を読んでいて、「国家」「経済」に取って「量」=「人口」=「マス」ということが感じられ、大学時代に学んだとはいえ「何が重要なんだろ、この学問は?」と思っていた「人口論」「人口学」の重要性というものが、少しわかった気がした。「マルサス」の名前を思い出した。内容は覚えていませんが。