新・ことば事情
5823「かたを付ける」
7月4日付の「日経新聞・夕刊」で、サッカー女子のなでしこジャパンが、2大会連続で決勝進出を決めたこと関する記事が出ていました。その中に、
「相手の想定を超えることをする。90分で方を付けたい」
という、主将・宮間あや選手の言葉が紹介されていました。
これを見て「おや?」と思ったのは、
「方を付ける」
という漢字の使い方についてです。これは、普通は「片付ける」ですから、
「片を付ける」
なのではないかと思ったのです。
日本新聞協会・新聞用語懇談会編の『新聞用語集2007年版』には載っていませんでしたが、読売新聞社の『読売スタイルブック2014』には、
「片が付く」
という形で「片」で載っていました。しかし、『精選版日本国語大辞典』の「かたが付く」の用例は、国木田独歩の『正直者』(1903)の中の、
「それなりで君の身の方(カタ)がつくといふものだ」
と「方」で載っています。『デジタル大辞泉』でも、見出しは、
「方(かた)が付く」
で、注釈として、
「◆「片が付く」とも書く」
とありました。『明鏡国語辞典』では、「片」の中に、
「物事の始末」
という意味が書かれた後の例文で、
「片がつく(=決着がつく)」「片をつける(=決着をつける)」
とありますが、こちらも、
【表記】「方」とも。
とあります。
『三省堂国語辞典』も「片」の中に、「片がつく」「片をつける」で載っていますが、意味の説明の中には「方がつく」も記されています。
『新明解国語辞典』は、「方」のほうに「方を付ける」とありますが、
【表記】「片」とも書く。
とあります。
『岩波国語辞典』は、「片」のほうに、
(3)「片がつく」物事が落着する。
とありますが、そのあとに注釈として、
「(3)は「形」の当て字か。」
と書かれています。「カタがつく」は、
「『形』が、それらしくなって落ち着く」
という意味として、語源をそこに求めているのですね!
『新潮現代国語辞典』は「方が付く」「方を付ける」が見出しですが、すぐその下に、
「片が付く」とも・「片を付ける」とも
とあります。
『広辞苑』は、ちょっとおかしくて、見出しは、
「片が付く」で「片」なのですが、用例は為永春水『春色梅暦』(1832~1833)で、
「おいらんのお身の上も、どうか手軽く方がつきませう」
というように「方」なのです。表記は気にしていないということでしょうか?
まとめて見ますと、
*「片」=読売新聞、※明鏡国語辞典、※三省堂国語辞典、岩波国語辞典、
*「方」=日経新聞、精選版日本国語大辞典、※デジタル大辞泉、※新潮現代国語辞典、※新明解国語辞典
ということです。※は、見出しにはそう書いてあるが、一応「別の書き方」も記してあるものです。『広辞苑』は、どっちに入れればいいのかな?引用での用例だけを見れば、『精選版日本国語大辞典』も『広辞苑』も「方」なんですけどね。
なかなか簡単には、「カタ」が付きそうもありません・・・。