新・ことば事情
5822「縦断か?横断か?」
「台風11号」が日本列島に向かっている時の天気予報を伝える際に、「日本列島」を、
「縦断」
するのか?それとも、
「横断」
するのか?が問題になりました。
最初は、読売テレビの他の番組が「縦断」で放送したところ、視聴者から、
「横断ではないか?」
というご指摘が。たしかに「縦断」というと、
「全てを貫いて"串刺し"状態」
のようなイメージがあります。それに対して「横断」は、
「その物の、短いほうの長さの一部を横切る」
といったイメージです。
但し、「縦・横」に関するもう一つのイメージには、
「南北=縦」「東西=横」
というものがあります。それで考えると、今回の「台風11号」は、
「南から北へまっすぐ進む」
ので、「縦=縦断」のイメージがあるのです。しかし、その「台風11号」が通る予想コースは、
「太平洋側の四国か和歌山県から、岡山~鳥取・島根へ抜けるコース」
ですので、九州や東海・関東・東北・北海道は、あんまり関係なく、
「全てを串刺し=縦断」
というイメージよりは、
「日本列島の一部を『横断』」
とする方がいいような気が。「ミヤネ屋」では、そういう理屈で一貫して
「横断」
にして放送したのですが、7月17日の日本テレビ「every.」では、
「西日本を縦断した台風11号」
と「縦断」で放送していました。
ここでまた問題が!「日本列島」だと通るのは「一部」だから「横断」で良いと考えたとしても、
「西日本」
だとどうなんでしょうか?まあ、これも「横断」で良いとしても、じゃあ、
「近畿地方」
だと、どうなんでしょうか?「近畿」だと「縦断」するような感じもしますが。つまり、
「同じコースを通る台風でも、地形によって『縦断』と呼んだり『横断』と呼ぶことがある」
ということですかね?
そもそも「縦」か?「横」か?というのは、とっても「相対的な感覚」ですよね。
以前、
「魚の縞模様は、タテ縞か?ヨコ縞か?」
という論文を読んだ覚えがあります。
つまり、私達が見て「タテ縞」に見える模様は、「魚」にとっては、
「進行方向に向かってクロスする形の縞なので『ヨコ縞』ではないか?」
という問題提起でした。
このように、「タテ」「ヨコ」は、基準によって変わる、という話でした。
ちなみに国語辞典は「タテ」「ヨコ」をどう記しているか?気になりますよね。
見てみましょう!まず「縦」、『広辞苑』から。
(1) 上から下への方向、また長さ。(例)縦書き
(2) まえから後ろの方向、また長さ。(例)縦に並ぶ
(3) 細長い物の長い方向、また長さ。(例)材木を縦に切る
(4) 南北の方向、また距離。
(5) 「たて糸」の略。
(6) 年齢・身分の上下の関係。(例)縦社会
「横」については、
(1) 縦に対して垂直の方向。上下に対して、水平の方向。立っているものが寝た位置。また、前後に対して、左右の方向・位置。南北に対して、東西の方向。(例)(一部略)横に長い、横になる
(2) 系列・系統を越えて、地位・水準などが同じ関係。(例)横のつながり
(3) 正面・背面ではなく、側面。特に左右の正面。(例)箱の横に絵をかく
(4) かたわら、そば。局外。(例)横から口を挟む
(5) 正しくないこと。また、無理にすること。
(6) 緯糸(よこいと)の略。
(7) (遊里語)客のある遊女が他の客の座敷へ出ること。(例)横に行く
とありました。
『三省堂国語辞典』『精選版日本国語大辞典』も、ほぼ同じようなことでした。
ここで「縦断」「横断」も見てみましょう。『精選版日本国語大辞典』です「縦断」は、
(1) 縦または南北の方向に断ち切ること。また、その方向に向かって通り抜けること。
(2) 山脈の走っている方向に尾根を歩くこと。縦走。
一方「横断」は、
(1) 横にたち切ること。平行方向に区切ること。
(2) 道路や敷地などを、一方の側から向かい側へまっすぐに行くこと。また、ある地域や海域を東西の方向に取ってゆくこと。
うーん、これで見ると、
「東西=横断」「南北=縦断」
ということだけで考えても、間違いではなさそうだな。
でもこれだと「魚の縞模様問題」は、解決できないな。
もう少し考えてみますね。