新・ことば事情
5812「ちゃん・くん・さん」
このところ、子どもが犠牲になる痛ましい事件が続いているように思います。
そういったニュースで出て来る被害者の子どもの「敬称」に注目しました。つまり、
「ちゃん」「くん」「さん」
の使い分けについてです。読売テレビ報道局のSチーププロデューサーに聞いたところ、日本テレビ系列(NNN)では、一応の「目安」として、
【男子】
(小学校入学前)「ちゃん」
(小学校入学後)「くん」
(11歳以上)「くん」
(中学・高校)「くん」(相手がどう呼ばれるのが自然かによって「さん」もあり)
【女子】
(小学校入学前)「ちゃん」
(小学校入学後)「ちゃん」
(11歳以上)「さん」
(中学・高校)「さん」
となっているそうです。
新聞用語懇談会の放送分科会で、過去に話し合われた内容も、参考までに掲載します。
【2008年9月】
*「ちゃん・君・さんの使い分けについて」
各社で基準があるようなので、特に今回、放送分科会でまとめて「用語集」に載せる必要はない。
(NHK)学齢前は「ちゃん」①誘拐・交通事故など痛ましい事件事故の場合は「ちゃん」②愛らしさを強調する場合は「ちゃん」。ただ小学校の教育の中で、敬称を「さん」で統一している県もあり、その県の支局のローカル放送では全部「さん」を使っているケースも。秋田の鈴香被告の事件の「豪憲君」は、マスコミ全社「君」で統一されていた。
(ABC)加古川の事件は「ちゃん」→痛ましいので「さん」に変えた。(=NHKとは逆のケース)
【2015年2月】
和歌山で起きた事件の被害者の「11歳の小学5年生」の「敬称」だが、NHKでは「さん」を使っていたが、それ以外のメディアは「君」だった。各社、使い分けの基準はどうしているのか?(共同通信)
(NHK)たしかに「さん」を使った。最近は小学校の現場でも、ジェンダーの関係で男子にも女子にも「さん」を使っており、「君」は使っていない。その影響かもしれない。その昔「吉展ちゃん事件」というのもあったが・・・。
(MBS)JNNでは、
*「大学生」=「さん」(男女とも)
*「小・中・高」=(男)「君」
(女)小学校低学年「ちゃん」、高学年以上「さん」
*「未就学児」=「ちゃん」(男女とも)
(テレビ朝日)ANNでは、
*「専門学校生・大学生」=「さん」(男女とも)
*「高校生」=原則「さん」。「君」もOK。
*「中学生」=(男)「君」
(女)「さん」
*「小学生」=(男)「君」
(女)9歳以下or3年生以下がわかれば「ちゃん」、それ以上は「さん」
~以前は全部「ちゃん」だったが、12歳が「ちゃん」はおかしいという声や、「さん」だと「かわいそう感」が出ないというような声もあり検討。4年前から上記のように決めた。「小4で9歳」という子がいた場合は、「学校の発表=小4」か「警察発表=9歳」か、どちらか「先に得た情報」の方の基準を使い、それで通す。
*「未就学児」=「ちゃん」(男女とも)
以上は「ガイドライン」だが強制はしない。小学生でも、女の子の場合は、大人並みに身長が高い子もいる。
(日本テレビ)記者が取材に行って、周囲の取材で聞いた呼び方が「ちゃん」なら、「小学校高学年」でも「ちゃん」とすることもある。
(フジテレビ)FNNでは、
*「大学生以上」=「さん」(男女とも)
*「中・高生」=(男)「君」「さん」
(女)「さん」
*「小学生」=(男)「君」
(女)「ちゃん」「さん」
*「未就学児」=「ちゃん」(男女とも)
☆その後NHKの委員から、最近の事例に関しての各社の状況が届きました。
(NHK)前回の和歌山の「小学5年生(11)の少年」の殺害事件では、
NHKのみ「さん」で他社は全て「君・くん」でしたが、今回の神奈川・川崎市で、
「中学1年生(13)の少年」が殺害された事件では、
*「さん」=NHK、日テレ、フジ:朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞
*「君」 =TBS、テレ朝、テレビ東京:読売新聞、日経新聞
となっています。中学生ぐらいからは「さん」で違和感はないようです。
小学生は微妙かもしれません。
【2015年4月】
☆敬称などの使い分けについて(関西テレビ)
放送原稿における「さん」「氏」「肩書」(例えば小保方「さん」「氏」「研究員」)は、各社どのように使い分けていらっしゃいますか。
(NHK)疑惑前は「肩書」「さん」、疑惑後は「肩書」「氏」になった。佐村河内氏も疑惑後は「氏」になった。「氏」のほうが、「距離をおいた感じ」がする。
(TBS)『TBS用語ハンドブック』では原則「さん」。小保方さんの場合は、STAP細胞のドキュメントでは「さん」、STAP細胞発表「ニュース」では「氏」で混在していた。疑惑後は「氏」「肩書」。佐村河内氏は、疑惑後は「氏」だが、「ニュース23」は「さん」。呼称では過去に「アウンサン・スー・チー」は「女史」だったが「氏」に変更された。
(NTV)STAP細胞研究中は「ユニットリーダー」という肩書。その後「元研究員」「さん」「氏」は混在。
(フジテレビ)決めていないが、通常は「さん」。政治家の場合は「○○大臣」だが、肩書が長いと2回目から「氏」にすることもある。小保方さんは混在していたが、疑惑後は「肩書」か「氏」。
(テレビ朝日)ハンドブックに、敬称は「氏」「さん」「君」「ちゃん」を使えとは書いてあるが、その使い分けの指示はない。政治家・財界人・疑惑の人物は「氏」が多い。社会部ネタなど市井の人は「さん」。公職選挙法で当落がはっきりするまでは、読みは「さん」、テロップは「氏」。
(テレビ東京)硬いニュースは「肩書」、被害者は「さん」。小保方さんは、疑惑前は「ユニットリーダー」と「肩書」。特に取り決めはなし。
(テレビ大阪)「さん」「氏」あいまい。テレビ東京に準拠。スポーツ選手には「肩書」なし。トークでは「さん」。「芸能人」や「いい人」には「さん」を付けて読む。
(MBS)呼称はTBSと同じ。タレントの「島田紳助」は「島田紳助タレント」という呼称だったことがあった。
(新聞協会・伊藤専門委員)以前は「さん」よりも「氏」のほうが「格上」のイメージがあった。それが産経新聞が「オウムの女たち」という連載をやった時に、すべて「氏」を付けて以来、「氏」の格が落ちて、うさん臭くなったと思う。その昔、「ロス疑惑」の「三浦和義氏」も「氏」が付いていたが。
(ytv)小保方氏は、疑惑前は「肩書」「さん」。疑惑後は、肩書がいろいろ変ったのと「元ユニットリーダー」の文字数が多いこともあり「氏」。
また、大分県杵築市で、父親が自宅に放火して、子ども4人が死亡した事件のニュースでは、7月6日の日本テレビ『ZERO』では、
(長女)悠佳梨さん(14)
(二女)真由美さん(7)
(四男)雅祐くん(9)
(五男)滋くん(5)
でした。「ミヤネ屋」でも、事件初日はそれで放送しましたが、日本テレビの「目安」に当てはめると、
(二女)真由美さん(7)→真由美ちゃん(7)
(五男)滋くん(5) →滋ちゃん(5)
となるので、「ミヤネ屋」では翌日から、そのように「敬称」を変更しました。
また、7月8日の日本テレビ「スッキリ!!」では、男の子は、
(四男)雅祐くん(9)
(五男)滋くん(5)
と、「ZREO」と同じでしたが、女の子は、
(長女)悠佳梨さん(14)
(二女)真由美ちゃん(7)
と、二女が「さん」ではなく「ちゃん」を使っていました。
また、岩手県で列車に飛び込み自殺した「中2」の、
「村松亮さん(13)」
に関して、日本テレビ系列は、
「さん」
を使っていますが、7月8日のテレビ朝日のお昼のニュースでは、
「村松亮君(13)」
と「君」を使っていました。(7月13日のお昼のニュースでも「君」でした。)
NHKは、「匿名」でした。その後、7月13日の昼ニュースでは、村松さんの父親が学校に真相究明を申し入れた段階では、名前を出して、
「村松さん」
と「さん」でした。
また、7月10日の「ミヤネ屋」内の「250ニュース」でも、日本テレビは、8日の「スッキリ!!」と同じように
(長女)悠佳梨さん(14)
(二女)真由美ちゃん(7)
(四男)雅祐くん(9)
(五男)滋くん(5)
としていました。
また、岩手県で列車に飛び込み自殺した中2の「村松亮さん(13)」に関して、新聞各紙(7月11日~13日夕刊)までを見てみたら、
(読売)匿名(男子生徒)
(朝日)さん
(毎日)さん
(産経)君
(日経)匿名(男子生徒)
でした。地方紙も報道フロアにあったので見てみると、
(神戸)君
(京都)君
(奈良)君
と、漢字で「君」でした。おそらく、
「共同通信が『君』」
なのだと思います。
なお、「平成ことば事情1284『ちゃん』と『くん』」、「平成ことば事情1346『ちゃん』と『さん』」もお読みください。