新・ことば事情
5801「視野に」
最近気になる表現に、
「視野に」
があります。きょう(5月25日)も、長崎県の公園に女性の遺体を捨てたとして、福岡の男2人が逮捕された事件で、テレビ朝日のお昼のニュースで地元局のアナウンサーが読んでいた原稿では、
「殺人容疑での立件も視野に捜査しています」
となっていました。テレビ朝日の女性アナウンサーが読んだリード部分は、
「殺人容疑も視野に捜査しています」
でした。同じ日の日本テレビのお昼のニュースでも男性アナウンサーが、
「殺人容疑も視野に捜査しています」
と読んでおり、テロップも「殺人容疑も視野に捜査」でした。テロップをそのまま読んでいる感じです。
実はこの「視野に」は、「ミヤネ屋」の原稿などでも、ものすごくたくさん出て来ます。そのたびに、
「視野に入れて」
に直しているのですが、こう直しても直しても出て来ると、徒労感があります。
6月21日に行われた「新聞用語懇談会放送分科会」で議題として出し、各社の対応をお聞きしました。
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「視野に」の表現について(読売テレビ・道浦委員)
「殺人罪も視野に捜査しています」のように、「視野に」で止めた形が、かなり使われています。「視野に入れ(て)」と直すべきでしょうか?もう「許容」の表現でしょうか?
→*「許容」とする社=ABCのみ。「原稿の尺によっては、仕方がないのではないか」
(テレビ朝日・A氏)決まりはないが「視野に入れる」が正しい。一般的には、こういった略語が日常的に使われていることは、否定しない。
(ytv・B氏)似たようなものに「念頭に置いて」を略した「念頭に」もある。これもあわせて検討してほしい。
(テレビ朝日・C氏)タイトルスーパーでは「視野に」はよく出て来る。その場合もナレーションは「視野に入れて」が正しいが、現場の記者リポートでは「殺人容疑も視野に、捜査しています」というのは、よく出て来る。
(日本テレビ・D氏)「常套句」なので使いたくない。「殺人罪の適用も検討して」などにしたいところ。テロップは「視野に」でも仕方がないが、その場合も読みは「視野に入れて」とすべきだ。「念頭に置いて」も「念頭に」と略さない方が良い。
(共同通信・E氏)慣用句や常套句は、あまり内容を考えないで書いている時に多用する。「視野に」「念頭に」は見出しになりやすい。それをそのまま、原稿本記にも書いてしまう。「見出し」が「本文」に入り込んで、だんだん、なじんでいってしまうのではないか。以前「はじける笑顔」というのが出てしまったことがある。(笑顔がはじけたら、大変なこと)「はじけるような笑顔」とすべきところだった。似たようなもので定着しているものに「前提に(して)」もあるのでは?
(読売新聞・F氏)他にも「~を引き合いに出して」を略して「~を引き合いに」や、「風前の灯火」を略して「風前」とした例もあった。慣用句はちゃんと使いたいが、「慣用句」だとみんなが知っていると思って「最後まで言わなくても、わかるのでは・・・」ということで、省略してしまうのではないか。
というような意見が出ました。
まだ、私は、「視野に入れて」に直していこうと思いました。