新・ことば事情
5795「近隣住民」
6月21日に東京で行われた新聞用語懇談会放送分科会で、私が提案した議題の一つに、
「近隣住民」
があります。最近、テロップや原稿で「近隣住民は」というのがよく出て来るのですが、私は、この言葉は「表現が硬い」ように感じるのです。
「近所の住民は」「近くに住む人は」
のほうが良いと思うのですが、他社では「近隣住民」が多用されているということはないか?と尋ねたのです。それに対する各社の意見は、
(フジテレビ)よく、目にも耳にもする表現。
(MBS)サイドスーパーには出る。コメントでは「近所の人」などと言い換える。
(共同通信)「近隣諸国」は使う。「近隣住民」も散見する。新聞原稿ではよく出て来る。放送原稿では「近所の人」に代える。
(日本テレビ)見出しに出て来る表現に引っ張られるのではないか?また「近隣トラブル」という言葉からの連想で「近隣住民」が出て来たのではないか?できるだけ「近所の人」などとする。
(共同通信)警察発表では「110番通報をした人は?」と聞かれたときに「近隣住民」と言っていたような覚えがある。
というようなものでした。
先日も「ミヤネ屋」で、事前にテロップをチェックしていたら「近隣住民」が出て来たので、チェックの段階で「近所の住民」に直しました。
ところが、6月30日に、男が走行中の東海道新幹線の車内で焼身自殺をし、女性一人が巻き添えで死亡するという事件があり、その男の近所に住む人に対する、各局のニュース番組でのインタビューでの「スーパー」(テロップ)を見ていたら、
*テレビ朝日「報道ステーション」=「近所の人」
*日本テレビ「ニュースゼロ」=「近所の人」
と、「近隣住民」ではなく「近所の人」でした。翌朝の番組も、
*日本テレビ「スッキリ!!」=「近所の人」
*TBS「白熱ライブ ビビット」=「近所の人」
と、「近隣住民」は使っていませんでした。もしかしたら、会議での議論が、さっそく反映されたのかな?(それは、ないかな。)
ふだん「近隣住民」が出て来る場合は、
「事件現場の近くに住む人」
ですが、今回の「事件現場」は、男の住居=東京都杉並区から遠く離れた、
「神奈川県小田原市を走行中の東海道新幹線の車内」
でした。たまたまその人の家の近くに住んでいて、事件は違うところで起きたから、
「近所の人」
にしたのでしょうか?「火事」など「事件・事故現場の近くの人の場合」は「近隣住民」というような「区別=使い分け」があるのでしょうか?その辺りは、ナゾです。