新・読書日記 2015_094
『「居場所」のない男、「時間」がない女』(水無田気流、日本経済新聞出版社:2015、6、1)
「みなした・きりう」と読むらしい。(奥付による)以前一冊だか、新書で「変わった名前の人だな。短歌かなんか、やってる人かな?と思った覚えがある。本名(?)ではないよね?
今回の本書のタイトルは、かつてのベストセラー『話を聞かない男、地図が読めない女 』 (アラン・ピーズ, バーバラ・ピーズ)を、嫌でも思い出す。
「居場所がない男」のほうは、「会社」という「日常」から放り出された男。これまで地域社会との付き合いもなく、"異邦人"として自宅周辺の地域に放り出される男。平日の昼間に地域の図書館に行くと、手持ち無沙汰にたむろする高齢男性が、やたら多い。これが「居場所のない男」だ。これまで、昼間は家にいなかったので、子どもの遊ぶ声やら工事の音やらは耳にしなくて済んだのだが、一日中家にいると、嫌でも聞こえてくる。うるさい。いきおい、自治会や隣の家に文句を言いに行くことに。子どもの声が聞こえてこそ、その地域社会の活性化につながり、少子化防止になるのではないか?そういう発想には、つながらない、「居場所のない男性」たち・・・。
そして「時間のない女」。「働く女性」とは、外で働く女性を思い浮かべる。というのも、日本においては「家庭労働」は「労働」とみなされておらず、その労働時間は「働く」ことにカウントされない。文字通りの「無償労働」である。しかも「家庭内労働」のほとんどは、女性が負担することになっている。そのうえ、社会に出て「外で働いている」のだから、男性よりも、女性の睡眠時間が短い。(我が家もそうだ。)これは、世界的に見ても珍しいらしい。他国では、男性の睡眠時間のほうが短いという。へえー。さらに女性は「出産リミット」という時間にも追われる。ふた昔、三昔前には、女性の"結婚適齢期"は「25歳=クリスマス・ケーキ(25日)」に例えられたものだが、今や「大卒女子」の「平均初婚年齢」は「31歳」になっており、「除夜の鐘(31日)」と呼ばれているらしい。知らなかった。
また「混雑する時間帯に、子どもをベビーカーに乗せて、満員電車に乗って来るなんて!」といういわゆる「ベビーカー論争」、これは一理あるとは思うのだが、でも、そんな社会はたしかに「子ども排除社会」だ。そんな状態では、のびのびと子育てをできないのも道理。
こういった状況を打ち破るには?著者は、成功例として「オランダ・モデル」を挙げる。「ワークライフバランス」「ダイバーシティ(多様性)」に可能性を託す。そして「家族」を中心としたこれまでの福祉制度を、を「個人」を中心とした福祉制度に組み直すことを提案している。改革のポイントは7つ。
① 育児・介護期間の評価
② 非正規雇用者の包摂と低い年金額の是正
③ 離婚時などの年金分割
④ 事実婚など多様な家族形態への対応
⑤ 基礎年金等の普遍的最低保証
⑥ 性中立的な制度
⑦ 女性の就労率を高める労働政策
だという。つまり「男性も含めた労働と家庭生活のあり方の再編」が、現在必要とされているのだという。政府が言うような「スーパーウーマンの活躍」だけでは世の中は変わらないと。普通の女性が、普通の男性と協働して能力を発揮できる社会づくりをしなければならないと。道は険しいが、少しづつでもやって行かねば。