新・ことば事情
5763「文相」
6月1日、自民党・衆議院議長で前・衆議院議長の町村信孝氏が、脳梗塞のため亡くなりました。70歳でした。お悔やみ申し上げます。
それを伝える6月2日「ミヤネ屋」のフリップで、町村氏の略歴を紹介したものの中に、こんな文章が。
「2000年 初代文科相(第2次森改造内閣)」
これを見て「おやっ?」と思いました。というのも、「省庁再編」が行われたのは、
「2001年1月6日」
だと覚えていたからです。そうすると「2000年」に「初代文科相」はおかしい。
そう思って調べてみたら、第2次森改造内閣は、
「2000年12月5日」
に発足しており、「省庁再編」後もそのまま継続していました。そうだとすると町村さんは、
「最後の文相(=文部大臣)」
であると同時に、
「初代文科相(文部科学大臣)」
でもあるということですね。それが分かるようにフリップを直すように、ディレクターに指示しました。そこで、若い(と言っても、もうすぐ30歳)ディレクターから質問が。
「『文相』の読み方は『ブンショウ』ですか?『モンショウ』ですか?」
あ、どっちだっけ・・・たしか「ブンショウ」だと思うけど・・・ずい分前の話だし・・・と慌てて、
『三省堂国語辞典・第7版』(2014年1月)
を引きましたが、最新のものは、やはり「文科相」しか載っていません。そこで、ちょっと古い、
『新潮現代国語辞典・第2版』(2000年2月)
を引くと、「文相」が載っていました。読み方は、私の記憶の通り、
「ブンショウ」
でした。他の辞書も引いてみると、
『新明解国語辞典第6版』(2012年1月)は、『新潮現代国語辞典』より新しいのに、
「文相(ブンショウ)」
は載っていましたが、新しい「文科相」が載っていません。「第6版」が出た時点で、もう「省庁再編」から10年以上たっているのに、これはちょっと、どうなんでしょうか?
『岩波国語辞典第7版』(2009年11月)は、両方とも載っていません。20代のADに、「文科相」と「文相」を並べて書いて読ませてみたら、案の定、「文相」は、
「モンショウ」
と読みました。40代のデスクに尋ねても、迷った挙げ句、
「モンショウ?」
と。その彼によると、そもそも「文科相」は「文部科学相」(文部科学大臣)という名前が長ったらしいので必然的に短く表記し、それを、「そのまま読む必要」が出て来たのですが、「文部相」(文部大臣)は、新聞など「書き言葉の世界」では「1文字」落として、
「文相」
としましたが、放送でそれを読むときは、
「文部大臣」
と読んでいたのと思うので、「文相」の読み方にはあまり注意を払っていなかった気がする、とのこと。確かにそうかもしれませんが、平日の夕方3時50分(45分だった時もあったかも)頃からやっていた、
「読売新聞ニュース」
などでは、「文相」も出て来て「ぶんしょう」と読んでいた気がしますけどね。
過去の「肩書」、特に「略称の読み方」って、当時を振り返る時に必要になるのに、なかなか正しい読み方が分からないということがありそうですね。その意味では、辞書に「文相」も載せておいたほうがいいのでしょうが、小辞典では、扱う語彙を絞らなきゃいけないので、もうほとんど使わない過去の制度の言葉を載せるか?というと、普通は、ふるいにかけられて落ちてしまうのでしょうね。
なかなか難しいですが、「いくつかの時代の違う辞書を揃えて置いて、使い分ける」という余裕があれば、そうするしかないのでしょうか。