新・ことば事情
5754「『日本人』か『邦人』か?」
5月21日に北海道・札幌市で開かれた「新聞用語懇談会・春季合同総会」で出た「言葉に関する議題」で、熊本日日新聞の委員から、
「『日本人』と『邦人』の使い分けについて」
という質問が出ました。それによると、
『①2013年1月に起きたのは「アルジェリア"日本人"人質事件」か、「"邦人"人質事件」か。
②昨年から今年にかけて起きた過激派組織「イスラム国」による拘束、殺害事件で、後藤健二さんは「"日本人"人質」か「"邦人"人質」か?湯川遙菜さんは?
③今年3月、チュニジアで起きたテロで殺害されたのは「日本人」か「邦人」か。
④今年3月のドイツ機墜落で亡くなったのは「日本人」か「邦人」か。
海外で日本人が事件、事故に巻き込まれるケースが目立っていますが、その際の各社の記事、見出しなどを見ると、「日本人」を使うか「邦人」を使うか表記の揺れがあるようで、弊社でも紙面編集の度に迷うところです。各社で何らかの基準、指標などがあれば教えてください。』
とのこと。これに対する各社の回答は、
(共同通信)基準はない。「日本人」と「邦人」は同じ意味。「在留邦人」等の「熟語」はあるが、「邦人=在留邦人」という意味ではない。見出しなどで文字数を減らしたいときに「邦人」を使い、本文では「日本人」としていることもある。
(熊本日日)初版では「邦人」という表記が出て来ることは少ないように思うが。
(共同通信)わかりやすくするために、できるかぎり「日本人」を使う。
(時事通信)「日本人2人、アメリカ人4人、中国人3人、インド人2人・・・」のように複数の国の人が含まれる場合には、「邦人」は不適切、「日本人」とする。見出しは「邦人」でも、記事本記では「日本人」としている。
また私も「放送」の立場から発言しました。
『放送では「耳で聞いてわかりやすい」ということを考えるので、「同音異義語」は避ける傾向がある。「邦人」は、「法人」と間違う恐れがある(「海外ホージン」は「海外邦人」「海外法人」、両方ありうる)ので、なるべく使わない。』
「邦人」を使った言葉を検索してみると、「外務省海外安全ホームページ」に、
「海外邦人援護統計」
というのがありました。また、
「一般財団法人 海外法人医療基金」(JOMF)
というのもありました。
この問題は、以前に考えた「国語か?日本語か?」という問題に、ちょっと似ていますね。
「平成ことば事情709 国語と日本語」も、あわせてお読みください。