新・ことば事情
5753「奈良・葛城市の『葛』の字体について」
5月21日に北海道・札幌市で開かれた「新聞用語懇談会・春季合同総会」の「言葉に関する議題」に、毎日新聞の委員から、
「奈良県"葛城市"の"葛"の字体について」
というものが出ました。それによると、
『奈良県"葛城市"は、「油のようなもの」が撒かれた寺の一つ「当麻寺」(旧字で「當」)のある市です。2004年に合併で誕生した市ですが、合併協議会が決めた表記は、下の部分が「匃」では なく、略字の「匂」です。市名を決めた当時は下が「匃」となっている字体が、コンピュータで出しにくいという事情があったのですが、JISの改定や、ウィンドウズのバージョーアップなどによって、今は逆に、下が「匂」の略字の方が表示困難な字体になってしまいました。しかも、2010年の常用漢字表改定で、下が「匃」の「葛」が入りました。市名が決まった当初、市の決めた略字通りに書くという社が多かったと思いますが、たとえば「常用漢字改定」などを機に、常用漢字表の字体に変えた、あるいは変えることを検討しているという社は、ありますでしょうか?放送の字幕表記も含め、対応を伺いたいと存じます。ちなみに毎日新聞では、原則「人」の「葛」を使い用語集もそうなっているが、大阪管内(広島あたりまで)は、市の主張する「ヒ」の俗事の「葛」にしている。関連でお尋ねします。兵庫県「宝塚市」 は、行政上は「塚」の「つくりテン」のある「冢」なのですが、その「旧字通り」に表記している社は、おありでしょうか。
「宝塚」の「塚」は、1954年市制施行時は「、」の付いた「塚」でしたが、1981年に「、」のない「塚」が常用漢字となったので、そのタイミングで毎日新聞は「、」のない「塚」に変えたと思います。』
とのことでした。各社からの回答は、
(NHK)神戸放送局は「、」の付いた「塚」を使っており。神戸放送局発の全国ネットニュースにも「、」が付いてると思う。ただし「宝塚歌劇団」は「、」がない。駅名も、ない。
「葛城市」は「ヒ」でやっている。
(新聞協会・用語コンサルタント)「葛城市」のサイトには「当時は正字がパソコンで出せなかった」として、どちらの字でも良いような感じで書いてある。
「宝塚市」は、市の名前は「、」があるが、駅の名前も公民館も「、」がない。
そこで「葛城市」のサイトを見てみたら、確かにトップページの「葛城市」は「ヒ」で書いてありますが、中を読むと「人」の「葛」も混在しています。
また、「宝塚市」のサイトの「よくある質問」に「市名の『塚』の『ヽ』について」というのがありました。それによると、
『宝塚市の「塚」は、宝の埋まった塚が有ったという、地名の由来から、固有名詞として宝塚市を正式名称としています。昭和29年4月1日に宝塚町と良元村が合併して市制を施行しましたが、宝塚市の「塚」は「ヽ」のあるものを正式文字としていましたが、昭和56年に常用漢字に入った「塚」は「ヽ」のない「塚」であったため、「ヽ」のない「塚」も使用していました。しかし、宝塚市では昭和60年に「ヽ」のある「塚」を正式文字として使用することに統一し、宝塚市役所において使用する市長印等の公印や、発行する証明書等の書類においては、「ヽ」のある「塚」を使用することとしております。
ただし、市民の皆様から提出される書類等での表記は、いずれのツカの字でも受け付けしております。また、宝塚市のホームページでは、ユーザーパソコンとの互換性の問題から例外的に「ヽ」のない「塚」を使用しているものです。』
とのことです。
引き続き、他社の回答は、
(朝日新聞)俗字の「ヒ」の「葛城市」でやっている。
(西日本新聞)鹿児島県の「薩摩川内市」の「薩」の字も、「産」の上のところが「立」なのか「文」のようにクロスしているのか?という字体の問題がある。西日本新聞では、南日本新聞さんが「立」を使っているので、それに合わせている。
これも鹿児島県の「薩摩川内市」のサイトを見てみると、トップページの市の名前は「立」ですが、その一番下の「住所」のところの「薩摩川内市役所」の「薩」字体は「文」となっていて、混在していました。
(毎日新聞)「文」のほうの「薩」にしている。
(NHK)現地の放送局に合わせるのが原則。(現地の放送局は、地元自治体に合わせている。)鹿児島放送局に合わせて「立」のほうの「薩」にしている。
(熊本日日新聞)数年前に「文」のほうの「薩」に統一した。これはJRの「肥薩線」(現在は「肥薩おれんじ鉄道」)が「文」のほうを使っていたので、それに合わせた。
(産経新聞)JR東海の「葛西敬之(よしゆき)名誉会長」の字体に関しては、平成15年(2003年)10月24日に通達があって「『ヒ』の『葛』を使ってください」ということになっている。また、埼玉県の「蓮田市」の「蓮」は、もともとは「2点しんにょう」だったのが、条例で「1点しんにょう」に変えた。岐阜県の「飛彈市」の「彈」は、上の部分が「口2つ」の正字だが、「ツ」の形もある。原稿では「ツ」の「弾」がよく出稿されるが、全部「口2つ」の「彈」に直している。
これも岐阜県の「飛彈市」のサイトのトップを見ると、「市名」は「口2つ」の「彈」ですが、やはりサイト内には「ツ」の「弾」も使われていました。
(共同通信)「ツ」のほうの「弾」で「飛騨市」としている。
(朝日新聞)宮城県の「塩竈市」も、正式には正字の「竈」だが、簡単な「釜」を使って書いている。ただし「どうしても『竈』を使ってほしい」という会社がある(「塩竈港運送」という会社。日通系。)ので、そこだけは、『竈』を使っている。
(新聞協会・用語コンサルタント)2009年の関東幹事会で「塩釜」とすることに決めた。
というように、活発な意見交換が行われましたが、その中でも特に私が気になったのは、
「塩竈市」
です。この「竈」は正字(旧字)ですが、「塩」は略字(新字)です。
なぜ片方だけ「正字」なんでしょうかね?
「塩」の正字(旧字)は「鹽」です。つまり「正字」を主張するなら、両方とも「正字」にして、
「鹽竈市」
としたらいいのになと思うのですが、でも、もし両方「正字」で書くとなると、めちゃくちゃ書くのが難しいですけど。