ご存じのように5月17日に行われた「大阪都構想の賛否を問う住民投票」で、
「賛成49.6%」「反対50.4%」
で、「反対票」が、賛成票を上回り、
「反対多数」
となりました。これを報じた各紙5月18日朝刊1面の見出しは(大阪版)、
(読売)大阪都 反対多数
(朝日)大阪都構想 反対多数
(産経)都構想「反対」
(毎日)都構想 否決
(日経)都構想を否決
と、毎日新聞さんと日本経済新聞さんは「否決」を使っており、他社は「反対多数」でし
た。
また、「テレビ」では、5月18日(月)の放送では、
(TBS)『Nスタ』=「都構想」反対多数で(18時台のニュース)
(CX)決戦敗北で「政界引退へ」1万表の僅差(18時台のニュース)
(NHK)『NEWS 7』大阪住民投票 反対多数(19時のニュース)
と、NHK・テレビ朝日・TBSなども「反対多数」を使っていました。
読売テレビ報道局では、読売新聞大阪本社と話して、
「『否決』は使わないことにした」
とのこと。理由は、
「『否決』(可決)というのは、『議会』で『議案』に対して使われるもので、『住民投票』にはそぐわない」
ということだそうです。
そのあたり、各社は、「住民投票」に「否決を使う・使わない」に関して、何か論議はあったのでしょうか?と、5月21日に北海道・札幌市で開かれた「新聞用語懇談会春季合同総会」で聞いたところ、各社の反応は、以下のようなものでした。
→(毎日新聞)大阪本社で議論を重ね「否決」を使った。当初は「反対多数」にしていたが、「否決」のほうが伝わりやすいと判断した。
(日経新聞)東京政治部と大阪社会部で協議した。これまでの「住民投票」は拘束力がなかったが、今回は法的拘束力があった。この結果(決定)により「都構想」の法案が「廃案になる」というイメージを伝えたいと考えたので「否決」を使った。
(読売新聞)見出しは「否決」で作ったが、「否決」では「住民投票」ということが分かりにくいと考えて「反対多数」にした。社内での意見は「反対多数」を使って良かったと。ただ読者からは、「1万票、0,8%の僅差なのに、『反対"多数"』という表現はおかしい!」という意見が十数件届いたのは想定外だった。(「多数」の意味を、読者が理解していなかった。)
(朝日新聞)「否決」「反対多数」どちらも「あり」だが、当日判断で、「住民投票」ということを強調するには「反対多数」が良いという判断。
(産経新聞)大阪本社、見出しは「反対」をカギカッコ付きで使った。議論は特になく、「否決」は使わなかった。「反対」とするのが、一番わかりやすいと考えた。ただし、識者のコメントでは「否決」と言っていたので、それはそのまま直さずに出した。
(秋田魁新聞)共同通信から記事の配信を受けているが、見出しは、「大阪都構想 僅差『NO』」と1面で出した。
(共同通信)「否決」を使った。議論はあったが、以下の3つの理由で「否決」にした。
① 住民投票だが、1票でも上回れば「大阪市」が消える決定である。
② 究極の民主主義である。
③ 「否決」というほうが見出しのインパクトが強い。
(熊本日日新聞)共同通信からの記事なので「否決」に。この「住民投票」は、大阪市を解体して5つの特別区にするという「都構想の協定書の賛否」を問うもの。それは「決定力」のある投票なので、「賛成・反対」ではなく、「否決」を使った。
(TBS)テレビは系列のMBSの原稿に従って「反対多数」にしたが、ラジオ原稿は原則「共同通信」の原稿を使うので、「否決」という原稿だった。そこで、「承認」の反対語として「拒否」「否認」「却下」「拒絶」なども考えたが、結局「反対多数」で放送した。
(テレビ朝日)大阪・ABC発の原稿。見出し(スーパー)は「反対多数」で、ナレーション原稿は「反対多数で廃案となりました」。しかし「否決」も間違いではないので、スタジオのトークで出て来ても訂正をしなくても良い、というスタンスだった。
この会議の前に、読売新聞大阪本社の井手校閲部長からメールを頂き、それを読んで私ももう一度考えてみました。
従来は、
*「議会の議決」=可決・否決
*「住民投票」=賛成多数・反対多数
という区別がありました。
しかし、結果が「拘束力」を持つものではなかった「従来の住民投票」に対して、今回の「都構想の住民投票」は「投票の結果によって即、法的な拘束力を持つ」という点で決定的に違います。
「法的拘束力持つ」という意味では「議会の議決」と同じだと考えられます。
ですから、「構成員」に着目した場合は、「市民=議員ではない」ので「可決・否決」を用いないが、「決まったことが法的拘束力を持つ」という点に注目した場合は、「直接民主主義における『議決』」と考えて「可決・否決」を用いることもあるのではないでしょうか?
つまり「可決・否決」「賛成多数・反対多数」の、「どちらも、あり」なのではないでしょうか?
今回の住民投票は、本当に色々なことを考えさせてくれました。
(2015、5、28)