新・読書日記
2015_067
『アメリカはイスラム国に勝てない』(宮田律、PHP新書:2015、1、30)
著者は「ミヤネ屋」にも何度かご出演頂いた、イスラム関係の学者の第一人者のお一人。
まさに「イスラム国」が日本に牙を剥いて来て、ジャーナリストの後藤健二さんらが殺された時期に読んだ。タイトル通りだと、アメリカをはじめとした我々も「イスラム国」に勝てないことになるが・・・。内容は。。。
*「イスラム国」の財源は、石油の密輸と身代金そして不動産の奪取って、それってまんま「犯罪者集団」ではないか!昨今、日本でよく耳にする「半グレ」どころか、「暴力団」「犯罪者組織」なんですね!改めて確認。
*イラクやシリアが、アフガニスタンと同じ過程をたどっていたと。なぜそのようなことが起きるかと言うと、
「サダム・フセインがスンニ派だったので、旧政権を弱体化させるためにスンニ派とシーア派の対立を多国籍軍が意識的に煽った側面は否定できない」(23ページ)
「レバノンでは全人口の22%がクリスチャン、40%がシーア派、30%がスンニ派」
「レバノン北部のトリポリでは、スンニ派の急進的集団と、シリアのアサド大統領の出身宗派であるアラウィー派、シーア派とのあいだで、武力衝突が発生するようになった」
*「2014年6月下旬、米国はシリアの『穏健な武装勢力』に5億ドルの資金協力を行う事を決定した。(中略)米国が支援する『自由シリア軍』(FSA)は、『イスラム国』や『ヌスラ戦線』(アルイカイダ系とされ、現在は「イスラム国」と同盟)」との戦いでは形勢が悪く、弱体化を余儀なくされている」(24ページ)
「自由シリア軍の兵士たちも腐敗しており、米国から供与された武器を、『イスラム国』に売却し、現金を手にするものもいる。イラクのシーア派主体の政府軍から米国製の武器がブラックマーケットに流れることも、頻繁にある。」(25ページ)
といった、明快に敵・味方に分けられない実態というのがあるということが、読み進めるにつれて分かって来た。
また、「イスラム国」のような過激派が台頭する一つの要因としては人口増加があり、アラブ諸国では高い人口増加に見合うだけの職を供給できない。しかもそれに、生産性の効率の悪さという問題が加わる。(52ページ)
*『「イスラム国」の台頭を促す米国の戦争経済』(214ページ)の項などを読むと、結局こういった事態を引き起こした大もとに、米国の政策があったことも分かって来る。そうか、本書のタイトルは、そういったことに原因があるのだなと。
もう最初から最後まで赤線を引きまくったら、ほぼ全ページ赤くなって、何が何やら、わからなくなってしまいました・・・。これも明快に分けられない実態・・・。
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(2015、2、13読了)
2015年4月30日 18:13
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新・読書日記
2015_066
『世界史の極意』(佐藤優、NHK出版新書:2015、1、10)
今、世界の動きを捉える専門家の中で、ロシアを軸として信頼できる情報を超人的に発信し続けている著者。その著者は、どのような本を読んで、どのような情報を信頼して育って来たのか?ということを教えてくれる一冊。
「歴史は悲劇を繰り返すのか?~世界史をアナロジカルに読み解く」から始まり、第二次世界大戦が終わっても「戦争の時代」は続いており、その中で「核兵器を使わずに戦争をする知恵」を、人類は学んできたと。
「帝国主義」「資本主義」の本質とその歴史から未来を読み解く。そこに新たに加わるのが「民族問題」そして「宗教問題」だ。
こうした「歴史の柱」を学ぶことで、我々は「戦争を阻止すること」が、究極の目的であることを忘れてはならない。
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(2015、2、20読了)
2015年4月30日 15:50
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新・読書日記
2015_065
『「昭和天皇実録」の謎を解く』(半藤一利・保坂正康・御厨貴・磯田道史、文春新書:2015、3、20)
現代日本の「歴史の大家」が集まって、去年秋に発表された「昭和天皇実録」全61巻・1万2000ページを検証した。その感想を対談・鼎談したもの。つまり1万2000ページを読まなくても、「昭和天皇実録」の特筆すべきところ、発見・問題点などを知ることができる。
昭和天皇の素顔を知ることで、
「なぜあの戦争に進んで行ってしまったのか」
「ポイント・オブ・ノーリターンは、どこだったのか」
「これまでの歴史が伝えた人たちの素顔は、本当に正しかったのか」
等の疑問に、ある程度、応えてくれる。これを読むことで、
「『昭和天皇実録』を読んでみたいな」
と感じました。
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(2015、4、16読了)
2015年4月30日 11:49
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新・読書日記
2015_064
『なにわ万華鏡~堂島商人控え書』(近藤五郎、富士見新時代小説文庫:2015、3、20)
実はこれ、会社の同僚である近藤五郎氏の作品!描き下ろし時代小説。「第1回富士見新時代小説大賞」で優秀賞に輝いたもの。近藤氏は以前、ケーブルテレビ局を舞台にした「青春小説」をものしているが、時代小説の出版は、これが初めて。
読み終わっての感想を一言で言えば、
「よく取材しているなあ」
偉そうに言うと、筆に勢いがあるのが感じられる。そして、著者自身が愉しんで書いている様子が伝わってくる。
「知りたい→調べる→知る→書きたい→書く→知りたい→・・・」
というループの中で生まれた作品のように思う。いや、「編集担当者」のような読み方をしてしまった!
読者としては、佐助の身を借りて江戸時代にタイムトラベルしているような感覚を味わえる。歴史上の有名人が次々出て来て、そこはちょっと、
「一介の商人(あきんど)が、こんなに超有名人ばっかりに次々と会うなんて、ホンマかいな?」
と思うのだが、だからこそワクワクできる。「小説って、フィクションは楽しい!」ということになるんですね。
最後に感想をひとことでまとめると、
「佐助と弁之助の物語の"続き"が読みたい」
である!
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(2015、3、19読了)
2015年4月29日 21:48
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新・読書日記
2015_063
『声優魂』(大塚明夫、星海社新書:2015、3、25第1刷・2015、1、10第2刷)
いつも「声優さんってすごいな」と思っている。
私もよく、「ミヤネ屋」で吹き替えをやっているが、これって結構、アナウンサーでは下手な人が多い。「吹き替え」は「セリフ」が多いので「語り」なのだが、アナウンサーは、つい「読んで」しまうのだ。「セリフ」だから「演じ」なくてはならない。つまり「声優」さんとは、その漢字が示す通り「声で演じる俳優」なのだ。しかし「声の専門家」であるアナウンサーも、声優には"勝てない"かもしれないけど、少なくとも「声の仕事」としては"負けない"ようにやらなくては!と思って、その「コツ」を掴めるかなあと思いながら、この本を手に取った。
「大塚明夫」さんの名前は、何となく聞いたことがあったが、
「あ、違った、私が知っているのは『大塚周夫』さんだった!」
と思って、「ちょっと待てよ、もしかして...親子?」と思ったら、案の定、親子。でも、こんな仕事は「一子相伝」でも、「二世議員」みたいなものでもないから、たまたま同じ道に進んだってことなんだろうな。
本を読んでいくと、初めから3分の1ぐらいまで、もう繰り返し繰り返し、
「声優なんか絶対に目指さないほうがいい」「悪いこと言わないから、やめときなさい」
とクドイほど書いている。何のための本なんだよ!と思うが、そんないやがらせ(?)にもめげないで読み進んだ人は、
「しょうがねえなあ、じゃあちょっと声優の面白みというか、やりがいも書いておくかな」
という感じになっていて、なかなか興味深い。
読んでいくと、「食っていける仕事」ではないということは、よく分かった。それでも好きで好きで仕方がなくて声優になりたい、声優の仕事がやりたい!と思える人か、もしくは、本当の「声優の天才」じゃないとやっていけない仕事のようです。「西友の仕事」じゃ、だめなんでしょうねえ。
「『感動』への志は持ちつつ、芝居中はあくまで『嘘をつかない』ことを貫く。それができなければ、役者としてひとつ抜けることはできないでしょう。こうした試行錯誤はおそらく、自分の胸に誰かの言葉が刺さった経験を持つ人間にしかできないことです。他人の言葉にハッとしたり、感動したり、あるいは深く傷ついたりーーそうした経験と感情のストックがあってこそ『言葉で人を刺す』ことの意味をふまえて、さまざまなキャラクターの陰影を表現できるのだと思います。」(118ページ)
人生経験は大事ですね、何事も。
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(2015、4、22読了)
2015年4月29日 16:08
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新・読書日記
2015_062
『自由にものが言える時代、言えない時代』(爆笑問題&町山智浩、太田出版:2015、4、21)
「爆笑問題」も面白いが、そこに町山さんが加わると、一体どんな毒を吐くのかな?と興味津々。タイトルも興味深いし。月刊誌「Will」に2009年9月号から連載していたものを、2015年4月号分までをまとめたもの。「時代の流れ」を感じますね。その「年」ごとに、その扉のところに、町山さんとの対談を付け加えている構成。
内容は「爆笑問題」の二人の漫才のように見えるが、これは全部「太田光」が書いた、いわば「漫才の台本」。結構、声を出して笑ったところや、思わず吹き出してしまった箇所が多かった。おもしろい!
ただ、残念なのは、「誤植」が多いこと。
(88ページ)×「今までの逮捕と会わせるとこれで六度目の逮捕」→○「合わせると」
(115ページ)×「立ち合いは強く当たって流れてお願いします」→○「流れで」
(122ページ)×「まだまだ余談を許さないけど」→○「予断を許さない」
(126ページ)×「菅総理も辞める次期のことが」→○「辞める時期」
(172ページ)×「篠田麻理子ちゃん」→○「篠田麻里子ちゃん」
(181ページ)×「後を立たない」→○「後を絶たない」
(218ページ)×「指名手配されていた。元CIA職員のエドワードスノーデン氏」
→○「指名手配されていた元CIA職員のエドワードスノーデン氏」
(223ページ)×「マスコミは加熱するよね」→○「マスコミは過熱するよね」
(226ページ)×「内容を変えた主宰者側」→○「内容を変えた主催者側」
(238ページ)△「このての話は」→○「この手の話は」
改めてこうやって書くと、ちょっと多すぎます!でもとってもおもしろかったですけどね。
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(2015、4、20読了)
2015年4月29日 10:06
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新・読書日記
2015_061
『県民性マンガ うちのトコでは4』(飛鳥新社、もぐら:2014、12、28)
就職ジャーナリストの石渡嶺司さんと、久々に会って飲んだ時に「これ、面白いですよ、よかったら・・・」とプレゼントされた一冊。不勉強で、こんなマンガがあることを知りませんでしたが、明らかに私が好きそうな・・・ごっつあんです!
47都道府県を擬人化して、(まあ、あんまりよく知らないんだけど)今はやりの「艦コレ」みたいな感じですかね、女の子ばかりではないんだけど。「血液型占い」よりは「県民性」のほうが、まだ傾向としては当たっているのではないかなあ。そこに基づいて、わが社制作の「秘密のケンミンSHOW」も成り立って、人気を博しているわけだし。
マンガを書くのも大変だけど、ここまでネタを仕入れる・調べるのも大変!労作だなあと思いました。もう「4」まで続いている人気シリーズのようですし。
「へえー」
と勉強になったのは、
「京都では90年ぐらいでは『老舗』とは言えない。100年200年ぐらいでないと『老舗』ではない」(137ページ)
「山口県では、『山口県』と『山口市』を『山口』のアクセントで区別している。(155ページ)。それによると、
「ヤ\マグチ」 =山口市
「ヤ/マ\グチ」=山口県
なんだそうです。知らなかった!
そして、関東で「しょっぱい」という味を、近畿周辺では「からい」と言い(これはもちろん知っていた)、北陸では「くどい」ということ(211ページ)など、勉強になりましたねえ。
ただ、苦言を呈すると、巻頭カラーの(8ページ)
「柳田国男の『方言集圏論』」
で、「柳田国男」の名前が、
「柳田邦男」
と、「ノンフィクション作家」の方の名前になっていました。「方言集圏論」の方の民俗学者の柳田さんは、
「柳田国男」
です。これは、この手の本では、絶対に間違ってはいけないところ。活字の部分だし、完全に誤植。あと、手書き部分のセリフで、
×「凝態語・凝音語」→○「擬態語・擬音語」
という残念な間違いがありました。校閲、しっかり!
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(2015、4、14読了)
2015年4月28日 16:53
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新・読書日記
2015_060
『原発とどう向き合うか~科学者たちとの対話 2011~'14』(沢田哲生編、新潮新書:2014、8、20)
ちょうどこれを書く前日に、福井地裁で、高浜原発3・4号機の再稼働は認めないという判決が出たが、この本を読んだのは、そのちょうど1か月前、旅行中のスペインの列車の中で。
サブタイトルにあるように2011年、つまり「福島原発事故」が起きてから2014年までの間に、編者である澤田哲生氏が中心となった対談を集めたもの。
澤田さんは「反原発派」かと思っていたが、そうでもない。「是々非々」でいく。第一義は「命」を守るということですよね。経済問題も大事だが、それより何より「安全」は、大前提として確保しなければならないと思う。
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(2015、3、14読了)
2015年4月28日 10:52
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新・読書日記
2015_059
『歴史の読み解き方~江戸期日本の危機管理に学ぶ~』(磯田道史、朝日新書:2013、11、10)
現代の「歴史家」の若手の大家で、向こう30~40年にわたって権威であろう磯田さんが、ご本人の一番得意な「江戸期」の分析で、現代に通じる「危機管理策」を教えてくれる至極の一冊。帯には、
「先達の叡智から 日本の未来を切り開く」
「危機への備え、先達の叡智に学べ」
とあり、さらに「見出し」的に、
「日本の犯罪率の低さは、綱吉時代に始まる」
「薩摩の実戦的 郷中(ごじゅう)教育が、維新の原動力」
「揺れを克明に記した江戸の地震計『天水桶』」
と興味深いものが並んでいる。読んでいて気になったものを記しておく。
「中世的暴力にとどめをさしたのが徳川綱吉の政権だった」(82ページ)
「歴史学では、鎌倉・室町時代(中世)を『自力の世界』ととらえ、江戸時代(近世)を『法治の世界』ととらえることが多い。中世の『自力』とはわかりやすくいえば、『やられたら、自分でやり返す』『自分の身は自分で守る』という思想で、自己武装が前提になった考え方」(82ページ)
「犯罪者を処刑するのは、被害者たる自分たちではなく、国家の警察力である。(中略)これが江戸時代の近代的なところ」(83ページ)
「長州人の学問好き」「長州人の理屈っぽさ」(107ページ)
さらに、宝永地震の際の富士山の噴火に関して、
「富士山の3倍、12キロ程度まで噴煙を噴き上げた」(187ページ)
「江戸でも火山灰の厚さが4~5寸、12~15センチ。火口の近所は3メートル積もったといいます」(187ページ)
「富士山の灰というのは、雪の重さに対して10倍の重さをもっており(中略)30センチ積もりますと、3メートルの積雪と同じ状態になります」(187ぺージ)
「私が危惧しているのは、火山灰の影響で、空気循環のためのフィルターが詰まってガスタービン式の火力発電所が動かなくなることです。」(188ページ)
「電力会社に強く伝えたいのは、『たとえ富士山の灰が5センチぐらい堆積しても、電力の供給が途絶えないように次善の対策を考えてもらいたい。』(188ページ)
これは、現代の我々にも参考になりますね。「富士山噴火」とか、チリの火山の噴火とか。
「金五郎さんのすごいところは、災害に対して緊急経済援助~今でいう補正予算ですね~をどのぐらいにしたかを書き残しているところです」(188ページ)
「米換算の総生産の2%を出した計算」
「各村からGDP全体のだいたい1%を復興事業に投入していることになります」(188~189ページ)
たいへん勉強になりました!!
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2015年4月27日 20:50
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新・読書日記
2015_058
『安倍官邸の正体』(田﨑史郎、講談社現代新書:2014、12、20)
以前「ミヤネ屋」にもご出演頂いていた、時事通信の解説委員・田﨑さんの著書。3月のスペイン旅行の1週間で読もうと持って行ったのだが、結局、帰って来るまでには読み終えられず、帰って来て読み終えた。
去年の12月末に出版されているが、2014年12月の衆院選の内幕について記されている。次の選挙までの安倍政権の運営を考える上でも読んでおくべき一冊だろう。
政権内部まで深く取材している著者から見た、安倍政権の「構造」と「正体」、さらに「一次政権とはどこが違うのか?」なぜ、一次政権の時と比べて「ゴルフ」の回数が激増したのか?「美しい国」路線を引っ込めた理由などが詳しく書かれている。
その中で著者は、「菅官房長官」を高く評価しており、「安倍政権は菅官房長官でもっている」ぐらいの勢いで褒めている。「褒め殺し」ではないようなのだが、内情を知らない読者から言うと、「そんなに凄いのかなあ?」とわからない部分はあるが、「粛々と進める"凄み"」は感じることができる。あまり笑っているところを見たことないもんね。あの「冷静さ」は、尋常ではないだろう。でも、怒っている感じのところはあるから、やはりかなり"抑え込んでいる感情"もあるのだろうなと。身体に悪いだろうな。
「安倍政権のキーパーソン」の一人が「菅官房長官」であることは、間違いないだろう。
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(2015、3、22読了)
2015年4月22日 16:40
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新・読書日記
2015_057
『寂しさの力』(中森明夫、新潮新書:2015、3、20)
著者は「おたく」という言葉の生みの親。作家であり、アイドル評論家。三重県生まれとは知らなかった。
その著者が「母」を失いかけたときに感じた「寂しさ」から、「成功者たちの原動力」「人間の最も強い力」は「寂しさ」ではないか?ということを「発見」し、その視点を基に読み解いていく歴史。自らの家庭の歴史と言うか「自叙伝」的要素もあって、同時代を一緒に体験できる面白さもあって、ほぼ一気に読んでしまいました。
中島みゆきへのインタビューのあとに、その時には答えてもらえなかった「答え」とおぼしき「曲」の歌詞を、テレビで聞いた時に感じた「感動」というのは、体験した人にしかわからないのだろうなと思ったし、「中島みゆき、やっぱりスゴイ!」とも思いました。
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(2015、3、26読了)
2015年4月22日 11:39
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新・読書日記
2015_056
『四次元時計は狂わない~21世紀文明の逆説』(立花隆、文春新書:2014、10、20)
月刊誌『文藝春秋』の「巻頭随筆」2011年5月号から2014年7月号までの3年分・39編をまとめたもの。以前は阿川弘之さんが書いていた、あれですね。あまり読む機会がないので、こうやってまとめて読むと、「3年」という時代の流れも分かってよい。
章分けをして「日本再生」「革命の性器」「知の新時代へ」の3つに分かれている。タイトルとなった「四次元時計は狂わない」は「日本再生」の章にある。ちょうどこの本を読んでいた時に、NHKの、あの「クローズアップ現代」で、この「四次元時計」を取り上げていた。
日本でいま、世界でもっとも正確な時計が作られているというのだ。「光格子時計」というその時計は「100億年に1秒しか狂わない」のだそうだ。まだ地球ができて「46億年」だから、地球ができてからこれまでで「1秒も狂っていない」という、想像もつかないほどの精密さ・正確さ。現在、世界で最も正確とされ、世界標準時刻を傷むのに使われている「セシウム原子時計」でも、「数千万年に1秒狂う」のだそうだから、「光格子時計」はその1000倍も正確だという。もう訳が分からない。
そこから先はさらに訳が分からないのだが、それほど正確になると、もう単なる「時計」ではなくて、アインシュタインの相対性理論でいうところの「時空のゆがみ」を計れるのだという。というのは、これほど精度が高いと、「地球の重力のほんのちょっとした違い」も「時間計測」に影響を与える。逆に言うと、「時間計測への影響」によって「時空の重力によるゆがみ」を計算できるのだという。
理屈は分かるような、わからないようなだが、「量は質に転化する」のだな、きっと。それによって、次のディメンジョンに上がるというか。難しいけど、なんとなくわかる。
著者は「まえがき」で、こう記している。
「アベノミクスなどいつポシャっても不思議ではないが、四次元時計の話を聞くと、日本はまだまだ大丈夫と思う。」
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(2015、3、13読了)
2015年4月21日 10:41
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新・読書日記
2015_055
『小林秀雄 学生との対話』(国民文化研究会・新潮社編、新潮社:2014、3、30第1刷・2014、4、10第2刷)
小林秀雄が講演の後、聴衆である学生との「質疑応答」だけを収めた本。この企画は秀逸。
実は小林秀雄は、講演内容を(もちろん質疑義応答も含めて)録音することや、それを本にすることを禁じていたという。しかしそうは言っても貴重なお話だから、主催者側はこっそりと録音していたんですねえ。そして小林秀雄の死後、遺族の許可を取って、こういった形にしたと。本人はイヤだったかもしれないが、のちの世の多くの人たちのためになっているので、「ゴメンネ」というところか。
いろいろ勉強になったところを抜き書きすると、
*「『大和魂』という言葉が一番先に出て来るのは『源氏物語』で。それ以前にはありません。」(16~17ページ)
*「『大和魂』は紫式部が言い出したのですが、『大和心』の方は赤染衛門です。」(18ページ)
*「歴史という学問は、自己を知るための一つの手段なのです」(26ページ)
*「神を信じ、神を祀(まつ)るというコンディションの中に人間が生活していた、『古事記』はその正直な記録であり、宣長は『古事記』そのままを信じたのです。」(27ページ)
*「現在使われている民主主義の思想と言うのは、まあ平等思想だ。政治的に平等だということですね。民主主義という思想で、人生の問題は全然片付かないよな。それはまた別の問題じゃないか。そういうふうに考えればいいので、民主主義を人生観と間違えるのが一番いけないね。」(84ページ)
*「ソクラテスの『無知の知』と孔子の『知らざるを知らずとせよ。これ知るなり』とは同じ意味だと考えてもいいでしょう。偉い人の言葉はみな同じようなことになるのは不思議です。そしてみな大変やさしいことをいっています。」(91~92ページ)
*「現代人は、すぐに行動しなくてはいけないと考えます。<あはれ>を知るということは、行動ではないのです。物を見ること、知ること、つまり認識です。物を本当に知るというのは一つの力なのだということを、現代人は忘れていますね。現代人はすぐに行動したがるのです。その行動の元になっているのが科学です。科学などというものは、物を知るためには、ちっとも役に立っていません。」(99ぺージ)
*「人が君を本当にわかってくれるのは、君が無私になる時です。君が無私になったら、人は君の言うことを聞いてくれます。その時に、君は現れるのです。君のことを人に聞かせようと思っても、君が現れるものではない。」(112ページ)
*「クローチェは『どんな歴史でも現代史なのだ』と言っている。現代の人がある史料を通じて過去に生きることができるなら、その人は歴史家と呼べるのです。」(127ページ)
*「昔は『増鏡』とか『今鏡』とか、歴史のことを鏡と言ったのです。鏡の中には、君自身が映るのです。歴史を読んで、自己を発見できないような歴史では駄目です。どんな歴史でもみんな現代史である、ということは現代のわれわれが歴史をもう一度生きてみるという、そんな経験を指しているのです。それができなければ、歴史は諸君の鏡にならない。(中略)一番忘れられているのは、この鏡としての歴史です。」(128ページ)
*「現代は、物質的な進歩は確かにたいへんなもので、それに僕らはつい目を奪われるから、人間はどんどん変わっているように思ってしまう。これは、人間の精神を蔑ろにしていることです。人間の変わらないところ、変わらない精神を発見するのには、昔のものを虚心坦懐に読めばいいのです。(143ページ)
などなど、含蓄に富んだ言葉の数々、大変味わい深い。また、当時の学生の『質問の質』が高いなあとも思いました。(もちろん、それほど高くない質問もありましたけど。)
ちょうど並行して、山田孝雄の『櫻史』も読んでいたので、本居宣長の「大和心」、オーバーラップして理解できました。
じっくり読んでいると、当時の講演会に出ているような気分になりました。ありがとうございました。
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(2015、4、3読了)
2015年4月20日 23:37
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新・読書日記
2015_054
『日の本切手美女かるた』(内藤陽介、日本郵趣出版:2015、3、25)
郵便学者・内藤陽介さんの著書。贈呈して頂いた。ありがとうございます。さあ、気合入れて感想書くぞ!
日本の切手の図柄で「美女」を描いたものをセレクトし、それを「いろはがるた」のように「いろは」順に並べ、見開き2ページで1つの切手の説明をしているので、読みやすい。しかし、たかが2ページと思うなかれ、内容はもの凄く濃く、深いのだ。「いろは」の文句(文章)は、選んだ美女切手に合わせて内藤さんが作って(選んで)いる。その関連の薀蓄も楽しい。
110ページほどのフルカラーの冊子は薄いが、中の写真の豊富さと内容の濃さは、200ページ超に匹敵するぐらいだと思う。
懐かしい切手の数々、やはり美しい切手は「切手趣味週間」と「国際文通週間」に多いなと思った。もちろん「国宝シリーズ」の切手も美しい。おなじみの図柄の切手の「元」となった美術品の背景を、この一冊で知ることができる。
私の「美女切手」の思い出と言えば、42~43ページに載っている、1965年の「切手趣味週間」で取り上げられた上村松園の最高傑作「序の舞」。綺麗な切手でした。「序の舞」という作品の名前や、「上村松園」という日本画家の名前を、小学生の時に覚えることができたのは、この切手のおかげ。
数年前に「序の舞」の実物を見る機会があったが、そのサイズの大きさに驚いた。「巨大」と言えるほど大きな作品でした。(今、調べたら、縦233cm×横141,3cm)ビックリ!切手だと可愛いサイズなのだけど。
でも、切手で知っている絵は、本物にも親しみが湧きますよね。
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(2015、4、13読了)
2015年4月20日 20:32
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新・読書日記
2015_053
『他人の意見を聞かない人』(片田珠美、角川新書:2015、3、10)
著者は関西在住の精神科医。産経新聞でコラムを連載しているほか、「新書」の著作も多数著している。私も、新しい本が出るとほとんど読んでいます。以前、「読書日記」で感想を書いたところ、新著を贈って来てくれたことがあります。その節は、ありがとうございました。この本は買いました。
いやあ、この本のタイトルを見たときは「ドキッ」としました。自分のことを言われているようで。普段は、本に紙カバーをかけずに読むのですが、これは紙のカバーをかけて読んだもんね。
著者が本書を書く「きっかけとなった人」は「安倍晋三首相」だという。アベノミクスに対する町の人の批判のインタビューを聞いて「おかしいじゃないですか!」と感情的に反論した様子を見て、「こういう人が増えているのではないか?」と思い、そういった人を生み出す社会状況や、対処法などについて記した。
「第1章 なぜ他人の意見を聞かないのか」
「第2章 自分しか愛せない人が増えている理由」
「第3章 他人の意見を聞かない人と向き合うと、どんな気持ちになるのか」
「第4章 集団化する意見を聞かない人たち」
「第5章 他人の意見を聞かないのか、きけないのか」
「第6章 意見を聞かない人への対処法」
いやあ、もう、耳が痛い。そんな気持ちで読み進むと、こういった一節が。
「異質な意見を排除して、自分たちこそが『正義』だと声高に叫ぶのは、根底に渦巻く欲求不満ゆえだろう。<差異の恐怖>や<陰謀の妄想>、あるいは欲求不満を抱くのは、現在の日本が自尊心を持ちにくい社会だからではないか。」
と、日本社会のあり方に言及。また、
「自尊心は、①経験によって強化された全能感 ②対象リビドーの満足 ③幼児期のナルシシズムの残滓 の三つに由来すると、フロイトは述べている。」
と、フロイトの節を。<差異の恐怖>や<陰謀の妄想>はないけど、根底に「欲求不満」があるのかなあ。そして、
「欲求不満に陥った中間層への呼びかけは、歴史的ファシズムの典型的な特徴一つ」
と、ウンベルト・エーコ(あの『薔薇の名前』の)は挙げているのだという。それは恐ろしい。
私は「自分の利益のために」とは思わないが、「自分は間違っていない」という思いが人一倍強いことは、自覚している。でも、直そうと思わないけどね。だから直らないです。
「処置なし」
です。しかし、「あとがき」を読んで少し反省。
「他人の意見を聞かないことを無自覚のまま攻撃手段として用いる人が増えているということである。しかも、攻撃された側は、より弱い相手の言い分を聞かないことで鬱憤を晴らそうとするので、延々と連鎖していくことになる。この構造を理解すれば、できることは二つしかない。まず『いつかは聞いてくれるようになる』という甘い幻想を捨てることだ。そのうえで、『他人のふり見てわがふり直せ』ということわざを思い出して、他人の意見を聞かない人に自分自身がならないように気をつけることである。そうすれば、少しは生きやすい社会になるのではないだろうか。」
反省。
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(2015、3、30読了)
2015年4月16日 19:00
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新・読書日記
2015_052
『勝負論』(青木功、新潮新書:2015、3、20)
プロゴルファー歴50周年を迎えた青木功さんによる「プロ」「勝負」に関するお話。語りかける口調で書かれているので、もしかしたら「語りおろし」のような形か。一応、週刊誌(「週刊新潮」)に連載されていた「おれのゴルフ」2014年1月~2015年1月までものをまとめたものだという。
ゴルフだけに「18章」に分けて書かれている。第1章・・・1番ホールは「一流と二流は何がちがうのか」。これは色んな超一流の人がよく書いているものだけど、また違う分野の超一流の人の言葉は、読んでみたくなるよね。
青木プロによると、「超一流」とは、
「当たり前のことを当たり前に実行できる継続力」
ではないかという。深くうなずける。
そのほかにも、
「プラス思考が大事。マイナス思考からは何も生まれない」
「好奇心が本当の努力を育てる」
など名言が目白押し。ほら、1番ホールを覗いただけで、全ホール、回ってみたくなって来たでしょ?
なかなか、興味深かったです!
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(2015、4、7読了)
2015年4月16日 15:58
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新・読書日記
2015_050
『櫻史』(山田孝雄・山田忠雄 校訳、講談社学術文庫:1990、3、10第1刷・2006、3、10第11刷)
「さくらし」ではなく「おうし」と読む。日本における桜の歴史書。「櫻」は「桜」の旧字体。かの山田孝雄(よしお)先生が、昭和16年に出された、文字通り、日本人と桜の付き合いを、時代順に「上古」「中古」「近古」「中世」「現代」と追って来ている。つまり、そんなに昔から、日本人は「桜」を愛で、桜と共に生活して来たのだなあということを、改めて知ることができる一冊。
しかし、旧字体で口語体ではない文章の上、500ページ近い文庫本なので、読み通すにはハードルが高い。何年か前に購入して、桜の季節が近づくたびにちょっと読んでは挫折し、ちょっと読んでは挫折し、、、つまり咲いては散り、咲いては散り・・・咲いてないけど、散ってばっかりだったが、「今年は絶対に読み通すぞ!」と覚悟して読んだ。大分、読み飛ばしましたが。
「桜」に関して一番有名ともいえる、本居宣長の、
「敷島の やまとごころを 人とはば 朝日に にほふ 山ざくら花」
という歌に出て来る「桜」は、「ソメイヨシノ」ではないし、日本人にとって古代から「桜」として親しんできた「桜」は「ソメイヨシノ」ではないということ。「ソメイヨシノ」では「朝日にのほふ」とはならない、とも。
山田孝雄博士の文章の、口語訳というか解説を各章ごとに加えているのは、息子の山田忠雄先生。1941年(昭和16年)に出た本を、半世紀近く経った1989年(平成元年)4月に出している。
「あとがき」を見ていてたら、和歌や漢文の口語訳の礎稿作成を、「今野真二」先生が担当されたと記されている。たしか、今野先生は、山田忠雄先生のお孫さんだ。昭和63年(1988年)11月22日から平成元年(1989年)3月7日までと、スケジュールも具体的に書き残されている。そういう交流もあったのだなあと、本編とは関係のないところで、感心した。
あ、でも、「父・孝雄」の作品を現代に復活させよう、後世に伝えようと考えた「忠雄」の試みに、「孝雄」にとっては「曾孫」にあたる「今野真二」を加えたということが、つまりこの本の「精神」でもあったのではないかなあとも思いました。
「さまざまな こと思い出す 桜かな」(芭蕉)
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(2015、4、8読了)
2015年4月15日 19:09
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新・読書日記
2015_049
『老人喰い~高齢者を狙う詐欺の正体』(鈴木大介、ちくま新書:2015、2、10)
「2015読書日記047」で読んだ『最貧困シングルマザー』と同じ著者・鈴木大介氏の新書での著作。(今年の2月に出たので「新作」でもあるが。)
世の中の「底辺」や「闇社会」で生きている人たちを取材するジャーナリスト・鈴木氏。
この本では、「オレオレ詐欺」など「老人」を喰い物にする「犯罪者」を取材。彼らがどのような手口で、どういう理屈でこういった犯罪行為を行っているのか?また、彼らが「いい加減な不良」ではなく、そんじょそこらの人間よりもよっぽど強い目的意識とプロ意識を持って、この"仕事"に取り組んでいるかということがわかる。
如何に捕まらないでやるか?如何に組織としてやるか?どういう手段で、部下を教育をして、どの位の期間で、どれだけ水揚げを得れば良いのか?という綿密な計画に基づいて、お年寄りを狙っているということがわかり、
「これは、お年寄りは、やられるわ・・・」
と舌を巻いた。
読み進む中で、そういった犯罪行為に彼らを追い込んだ"社会"」
とは?ということも考えさせられる一冊である。
それにしても、「喰う」の字を「口へん」にしたら、ものすごく「おどろおどろしい感じ」になりますねえ・・・。
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(2015、3、9読了)
2015年4月15日 16:08
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新・読書日記
2015_048
『棒を振る人生~指揮者は時間を彫刻する』(佐渡裕、PHP新書:2014、10、29)
タイトルが面白い。指揮者は確かに「棒を振る」が、「人生」が付くと「人生を棒に振る」に見えるところが"遊び心"だなあ。
いまや、日本を代表する指揮者の一人となった佐渡裕さんが、自らの生い立ちと音楽、楽譜、指揮者、そして「第九」についての思いを語った一冊。
2015年9月から2018年8月末までの3年間、ウィーン・フィルと常に比較されてきたというオーストリアのオーケストラ「トーンキュンストラー管弦楽団」の音楽監督を務めることになった佐渡さん。それに向かうにあたって、これまでの自身の「音楽の軌跡」をまとめておきたいような気になったのではないか?
ことし9月からの、彼の地でのご活躍、期待しています!
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(2015、2、18読了)
2015年4月15日 13:01
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新・読書日記
2015_047
『最貧困シングルマザー』(鈴木大介、朝日文庫:2015、1、30第1刷・2015、2、10第2刷)
社会の弱者に注目し、「ルポ」的なノンフィクションを書き続けている1973年生まれの著者。現代日本における「弱者」の一つ「シングルマザー」の「貧困」を探った。
日本の母子家庭の約半数が、年収125万円に満たない「貧困層」。プロローグでは「本書を社会学的なルポルタージュにしたくないと、強く願う」とある。本書で取り上げられた、今実際に「最貧困」状態にあるシングルマザーたちは、「食べるため」「生きるため」に「売春」を行っている。しかし、それでも食べていけないという現状。
「働けばいいじゃないか」というような言葉がむなしくなるような状況は、理解できない人には、理解できない。でも厳然として、そういった人間が、いる。
どうやれば彼女たちを救えるのか?取材をしながら、その道を探る著者であるが、この沼は、深くて"底なし"である。彼女たち本人が「救ってほしい」と声を上げれば・・・と思うが、それさえできない状況というのは一体・・・。
しかし、"売春婦にもなれない"という「絶対的に持たざる者」である彼女たちであるが、決して「放さない(離さない)もの」がる。それは「子ども」なのだ。だからこそ「シングルマザー」という生き方なのである。「子どもがいなければ、働ける」という状況でも、決して離さない。「子ども」こそが、彼女たちにとっての"最後の依り処"なのである。
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(2015、3、5読了)
2015年4月15日 10:59
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新・読書日記
2015_046
『若者はなぜ「決めつける」のか~壊れゆく社会を行き抜く思考』(長山靖生、ちくま新書:2015、2、10)
タイトルの内容を期待すると、ちょっと、あれ?と思う。若者の動きを通じて、日本の世の中の現状を解き、その生きにくい時代の生き方をアドバイスする一冊。
「2015読書日記045」で書いた春香クリスティーンさんの本を読めば、「若者」が「決めつけている」とは思えないが、そういう若者は「少数派」ということか?
この本の著者が、以前(2003年)、『若者はなぜ「決められない」か』という本を書いているが、それから12年がたった時点での若者は、今度は「決めつける」のだという。つまり「両極端」に振れるということ。これは日本人の特徴なのかもしれない。
若者が社会へ出る=就職・就職活動(就活)に関しての状況、社会の「働き方」の変化、それによってこれまで「モラトリアム」などといって、そういった存在を、余裕を持って受け入れていた社会が、若者に「決断」を迫り、追い詰めるようになった。そして、その「決断」による結果を「自己責任」として切り捨てる。全ては「グローバル化」の影響だ。2000年~2009年の「ゼロ年代」、小泉政権から始まる中で、その傾向は固定化していったのである。そうして「一億総中流」だった時代の「ふつう」が、「ふつう」の人には手に入らなくなった。そのために「モノを持たない生活」から「家族を持たない(持てない)生活」への変化が生まれた。
「弱者、ゆとり教育、キャラ」の項(161ページ~167ページあたり)で著者は、
「困った状態にある人を、ここでは『弱者』と呼んでおくが、私の見るところ、若者には『否認系弱者』とでも呼ぶべき存在が多い。かれらは『弱者』であることを認めたがらない。架空の万能感に固執して、自分の現状を自覚することができない。(中略)『意識高い系』も、軽度の否認系といえる。また否認系は、『中二病』ともつながっている。中二病とは、中学二年生にありがちな背伸びした恥かしい思考、言動のことだが、これが嵩じると誇大妄想的な大言壮語になる。あるいは日常会話に非日常的なことばが増えて来る。」
「一方、自分の弱者性を自覚した人が陥りやすいのが、『他責系』あるいは『自責系』という次の段階の困難だ。」
というように詳しい分析が続くが、読んでいて自分のことを言われているようで、ムズムズする部分もあった。
また「弱者性を権利とする人々」は「思考停止状態」が見られ、本当は危険性を示すデータが存在したにもかかわらず「想定外だった」「信憑性が確認できなかった」「部下から報告を受けていなかった」「いじめはなかった」等の「言い訳」をし、職務責任として「知る努力」をしなければいけなかったのに怠った「①無能 ②怠慢 ③虚偽」のいずれかに該当する、というあたりは「ああ、あの議員、あの会社か、あの学校・・・」というように思い当る事例がたくさんあった。
著者の本業は、歯科医。歯医者さんの傍ら、こういった評論を多数、ものしている。驚きである。
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(2015、3、10読了)
2015年4月14日 21:58
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新・読書日記
2015_045
『ナショナリズムをとことん考えてみたら』(春香クリスティーン、PHP新書:2015、2、27)
「ミヤネ屋」にもご出演頂いている春香クリスティーンさんの著書。ちゃんと買いましたよ!若き社会学者・古市憲寿さんによる帯の推薦文は、
「『右』でも『左』でもなく『前』~春香さんのバランスと聡明さが存分に発揮された前向き社会論」
そう、今の時代「右」も「左」もない。「前」=未来に向かって、いかに「より住みやすい世の中を築く」かですよね。
春香さんは、2013年12月26日の「ミヤネ屋」でのいわゆる「ヒトラー発言」が、視聴者からの強い反発を招いたことを受けて、
「私は右でも左でもないのに、その発言が、なぜこのように過剰な反応を招いてしまったのだろうか?」
ということに疑問を持ち、その視点で「現代日本の状況」を客観的に分析してみた。その分析=ある意味での研究結果を、本書に記している。
そしてその視点は、「イスラム国」などの問題にもつながっているのではないか?と。
春香さんが、「政治」に興味があるのは、「政治が生活に密着しているから」だという。たしかにそうなのだが、それに気付かない人も多い。私たちが一番、政治にコミットできるのは「選挙」であり、微力ではあるが、その権利を行使できるのは「投票」行動なのに、
「どうせ、何も変わらない」
と「試合放棄」をする人がいかに多いかは、つい先日の「統一地方選挙」を見ても分かる通り。
それでは、何も変わらない。「投票=生活」だという強い意識を、どうすれば持てるのか?少なくとも本書を読むところから始めたい。20歳そこそこの女の子が、これだけ真剣に考えているのに、我々大人が考えないわけにはいかないではないか。
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(2015、2、27読了)
2015年4月14日 19:30
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新・読書日記
2015_44
『中間層消滅』』(駒村康平、角川新書:2015、3、10)
「2015読書日記043『地方消滅』(増田寛也編著)」と続けて読んだわけではないが、あとで見直すと「消滅」という言葉が共通している。ことしのキーワードか?
今、話題のピケティ等の主張にも触れながら、グローバル化(アメリカ化)によって富の集中が進んで中間層が消滅してきていると。しかし歴史的に見れば、現在よりももっと富の集中していた時代はあったという。また「所得が上の人が富めば、その"おこぼれ"で所得の下の人も潤う」という「トリクルダウン理論」は「神話(ウソっパチ)」だったとも書いている。
そして、いくら「制度」ができても、その狭間を埋める最後の砦(とりで)は、「地域(住民)の力」であるという。結局、これまでも「このままではゆくゆく、ダメになる」と分かっていた制度を、
「まあ、今はまだ大丈夫だから、解決は先の世代の人にやってもらおう」
と「先送りしてきたツケ」が、ついに支払いのときを迎えているのが現在である。もう「安くて質のいい物」を求めるのは無理だという意識を、皆が持たなくてはならないと著者は述べる。その意味では「痛みを伴う改革」という掛け声は、(方向性は別にして)小泉政権が発した数少ない「良い点」だったのかもしれない。
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(2015、4、4読了)
2015年4月14日 15:41
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新・読書日記
2015_043
『地方消滅』(増田寛也編著、中公新書:2014、8、25初版・2014、11、25第13版)
去年の「新書大賞」を取ったベストセラー。これも、2月に3泊4日で東北を旅した時に読んだ。東北の街々を実際に歩きながら読むと、より内容が理解できるかなと思って。
要約すると、基本的には、国や自治体の繁栄は「人口」であると。人口が減ると国も自治体も衰える。つまり「少子高齢化」は「国(自治体)を滅ぼす」ということで、この主張自体には、それほど目新しさはない。本書ではその防止策として、
「地方の『中核都市』に人口・施設を集中させて、地方全てが消滅するのを防止する」
ということを挙げている。これがポイントかな。
その際に重要な人材は「若い女性」、つまり、
「子どもを産める女性の人数」
が、この防止策の成功を左右するというような内容でした。これって「女性は産む機械」的な発想ですよね?そうは言っていないけど。それが重要だというのは、その通り。もちろん、「人口が減ったら繁栄はない」という考え方を「是」とすれば、ということですが。
それにしても、1970年代ぐらいまでは、
「このペースで人口が増え続ければ、食料がなくなる」
というマルサス的な視点だったはずなのに、今度は人口が減って来ると、
「人口が増えないと国が亡びる」
というのは"マッチポンプ的"な気がするんですけど、そこはどうなのか?
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(2015、2、18読了)
2015年4月14日 11:40
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新・読書日記
2015_042
『震災傍聴記~3、11で罪を犯したバカヤローたち』(長嶺超輝、扶桑社新書:2014、3、1)
ことし2月に、東北を3泊4日で旅した時に読んだ。
著者はこれまでも裁判の傍聴記をものしており、わかりやすい法律関係の著書もある。
「裁判」という中で、さまざまな人間模様が浮き彫りになる様子を描いた先達には、佐木隆三がいるが、本書は小説にまでは昇華しない「生データ」としての記録。
東日本大震災に際しては、「被災地では、商品の強奪などの犯罪は無かった」「日本人は、危機に際しても整然とマナーを守る素晴らしい民族だ」等の評判が世界中に広がったが、確かにほとんどはそうだったかもしれないが、例外的に「ダメなヤツはダメ」というか、「そういった倫理観が、欲望に負けてしまう弱い人間は、どこにでもいる」ということの記録。
「絶対に、今、そんな犯罪をそこで犯しちゃだめだろう」という状況の中なのに、あるいはそういった状況だからこそ、なぜか意思に反して「やってしまう」人間がいる。「バカヤローたち」という言葉でくくられた人が、どんな「バカヤロー」で、なぜ「バカヤロー」な事をしてしまうのか。本書を読んでください。
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(2015、2、15読了)
2015年4月13日 22:39
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新・読書日記
2015_041
『通訳日記~ザックジャパン1397日の記録』(矢野大輔、文藝春秋:2014、12、15第1刷・2014、12、23第4刷)
去年のブラジルワールドカップ終了までのサッカー日本代表監督だったザッケローニ氏・通称ザックのイタリア語通訳を務めた著者の日記。結構、分厚い本。文藝春秋者のスポーツ専門誌「ナンバー」で連載していたものをまとめたもののようだが、「ナンバー」では読んでいなかったので、初めて読んだ。「通訳の目から見た『ザック・ジャパン』の真実」と言った感じ。何せ「1397日」もの期間の記録なので、大変貴重な資料だと言える。監督だけではなく、もちろん代表選手とも接触しているので、それぞれの選手の素顔も垣間見えて、それも貴重だ。
「通訳」と言うと、「イタリア語ができればいい」と考えがちだが、プロスポーツのチームの通訳はそれだけではなく、監督と選手の間に立ち、サッカー戦術などから、監督の考え、選手との接触の仕方も、もちろん分かっていないといけないし、「通訳」にとどまらず「ヘッドコーチ」的な役回りも、こなさなければならない。まさに「日本代表の一員」として、共に戦ってきたことがよくわかる一冊。
ザックが著者に対して「ダイスケ、ここでの通訳の経験は、君が将来監督を務めるときにきっと役に立つ」と言ってくれたそうだが、その通りだと思った。
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(2015、2、13読了)
2015年4月13日 19:38
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新・読書日記
2015_040
『スペイン ロマネスク巡礼』(村田栄一、社会評論社:1989、7、31)
もう26年も前に出た本。その頃に買ったけど読んでなかったんです。
今回、19年ぶりにスペインへ行く、しかもバスク地方へということで、その辺りの記述もあるこの本を、本棚の奥から引っ張り出して来て、バスクの所だけを読んでから、スペインに行き、帰って来てから、残りのところも読みました。
タイトル通り、基本的にロマネスク様式の建物を巡って、自動車で旅行する本なので、車では移動しない私では行けない場所とかコースもあったが、何となくイメージしながら読み通すことが出来ました。
でも、もうこれが書かれてから30年ぐらい経っているので、今とは全然違う風景になっている所もあるんでしょうね。その一方で、全然変わっていない所もあるんだろうな...などと想像しながら読みました。
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(2015、3、30読了)
2015年4月 9日 21:24
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新・読書日記
2015_039
『すまたん!Walker』(KADOKAWA、2015、3、26)
読売テレビの朝の関西ローカルの人気番組「す・またん」の「放送5周年」を記念して出たムック。「ムック」というのは「マガジン」と「ブック」の中間ということでできた「合成語」ですね。
会社の近くの本屋さんに平積み・山積みだったので、買いましたよ、1296円払って。
「高い!」という声も聞こえてきますが、全部カラーだし、もう増刷が決まったぐらいの人気だけど、これでも「赤字」という話も聞くし、本って、なかなか儲からないんだなと、改めて。
しかし「す・またん」という番組は、バンドでコンサートをやったりCDを出したり、グッズをいっぱい出したり、イベント好きですね。
まあでも、ファンの方には必携の一冊と言えるでしょう。思っていたより、中身が濃くて面白かったですよ!
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(2015、3、30読了)
2015年4月 9日 19:22
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新・読書日記
2015_038
『2015高校サッカー年鑑』(講談社:2015、2、12)
ここ20年以上、毎年購入して母校の戦績を確認するが、最近はなかなか大阪府の大会のベスト8にも上がって来なくて残念。頑張れ、後輩たち!って、もう息子世代なんだけど。
この一冊で、この一年の高校サッカーの動きを確認するとともに、自分が現役の高校生だった頃が、どんどん「歴史」になっていっているなあ・・・ということを、再確認しています。
講談社さんには、ぜひこの文化的事業を続けていただきたいと希望します!
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(2015、3、4読了)
2015年4月 9日 18:21
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新・読書日記
2015_036
『あんなお客(クレーマー)も神様なんすか?~「クレーマーに潰される!」と思った時に読む本』(菊原智明、光文社新書:2013、8、20)
「ビリ営業マン」から4年連続「トップ営業マン」になった著者の体験から導き出される「クレーマー対応策」をまとめた本。
タイトルの「なんすか?」という語尾に「若者らしさ」「投げやりっぽさ」「怒り」を感じる。しかし、この質問に対する著者の答えは、私が想像した通り、
「YES」
だ。クレームを言ってくれるお客様は「神様」なのだ。神様の声を生かすことで、商売はさらにうまくいくのだ、ということを書いていますね。結局、そういうことでしょ。
もちろん、無理難題を言って来る「悪質クレーマー」は別だが、そうでないお客様の意見は、
「茄子の花と親の意見は、千に一つも無駄はない」(でしたっけ)
その「親」のところを「お客様」に置き換えればいいと。
そういうことだと思いますよ。
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(2015、2、15読了)
2015年4月 9日 11:19
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新・読書日記
2015_035
『サランラップのサランって何?~誰かに話したくてしかたなくなる"あの名前"の意外な由来』(金澤信幸、講談社文庫:2015、2、13第1刷)
2年前に同じ著者の『バラ肉のバラって何?~誰かに教えたくてたまらなくなる"あの言葉"の本当の意味』(金澤信幸、講談社文庫:2013、6、14)を読んで「2013読書日記180」に感想を書いたところ、著者の金澤さんから連絡を頂いた。なんでも、私が「読書日記」に感想を書いた日に、アマゾンかなんかで急に売り上げランキングが上がったそうだ。理由を調べたところ、どうやらこの「読書日記」で褒めたおかげだと、お礼を言われた。いや、そんなに影響力ないと思いますけど。でもやっぱり、著者は自分の本の評判をチェックしているんですね。
で、阪急梅田駅の「ブックファースト」をのぞいたら、この本が目に入ってさっそく購入!
なんだ、金澤さん、送ってくれたらいいのに・・・と思いながら、
「でも、自分が興味を持っているおもしろい本は、やはり買わなきゃ!」
と思い購入、一気に読み終わった。
いやいや、勉強になりますね。もちろん、この仕事をしているので「特定商品名」については多少の知識はあり、「知ってる、知ってる」というものもありましたが、半分以上、知らないものでした。特に、タイトル「サランラップ」の語源、知らなかったなあ。サブタイトルの「誰かに教えたくてたまらなくなる"あの言葉"の本当の意味」(長い!)にウソはない。いくつか挙げて見ましょうか?
「近江兄弟社の兄弟社って、兄弟が作った会社ではない」
「フマキラーの最初の名前は『フモキラー』だった」
「スターバックスって、最初は『ピークォッド』としようとしたが・・・」
「目黒区洗足って、日蓮が足を洗った洗足池からできた地名」
などなど。ほら、読みたくなって来たでしょ?
買って読んでください。
なお、本書を読み終わって一週間ほどした頃、金澤さんから「献本」が届きました。ありがとうございます!
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(2015、2、24読了)
2015年4月 9日 09:18
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新・読書日記
2015_034
『戦争を取材する~子どもたちは何を体験したのか』(山本美香、講談社:2011、7、12第1刷・2012、8、29第3刷)
シリア取材中に亡くなったジャーナリスト山本美香さんが、子ども向けに書いた本。
大きな字と豊富な写真で、やさしく「なぜ、戦争を取材するのか」を子どもたちに教えてくれる。読んでいると、自分も子どもになったような素直な目で、文章を追える。
日本にいるだけでは知らずに済んでしまうこと、世界各地の国々で、
「たくさんの命がひっそりと亡くなっている」
ということ。それを日本の人々にも知ってもらいたいという思いで取材していると。
それは結局、
「命とは?」「生きるとは何だろう?」
という問いにつながり、
「命を大切にすること」
につながる。その思いをみんなが持てるようになれば、世界はつながり、戦争はなくなる。「命の大切さ」を伝えることで、「平和」への理想を追うからこそ、「戦争」の現場で駆けずり回るようになるという、ちょっと逆説的な、皮肉なことになるのだけれども。
その戦場・市街地で、山本さんは銃撃され、亡くなった。「命の大切さ」を伝えようとして、自らの命を失った。その思いを考えさせられる一冊である。
なお、「2015読書日記025『戦場でメシを食う』」の著者・佐藤和孝は、仕事でも生活でも、山本美香さんのパートナーであった。
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(2015、3、11読了)
2015年4月 8日 21:16
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新・読書日記
2015_033
『歴史街道カミノ・デ・サンティアゴの旅』(米山智美、文化出版局:2002、12、22)
3月13日から20日まで、「勤続30年休暇」を使って、7泊8日でスペインへ行って来ました。スペインへ行くのは19年ぶり4度目。今回は、これまでに行ったことのない「バスク地方」へ行くのが目的。日程などと相談して、結局、「サンセバスチャン」と「ビルバオ」そして、ピカソが絵に描いたことで有名な「ゲルニカ」という小さな村を訪ねました。スペインへ行く前に、行きつけの大阪・京橋のスペイン・バルのマスターに借りたのがこの本。サンセバスチャンやビルバオの美味しそうなお店が紹介されていました。
実際、ビルバオでは、この本に載っていたお店を訪ねて行きました。13年前に出版された本だけど、お店はちゃんとありました!でも、30歳ぐらいの若いマスター(息子だと思う)に代替わりする直前なのか、ひげ面60代台ぐらいのおじさんと二人で、店を切り盛りしていました。こういうのも楽しいですね。やっぱりスペインはいいなあ。
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(2015、3、11読了)
2015年4月 2日 11:11
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