新・ことば事情
5666「カサースベ中尉」
イスラム過激派組織「イスラム国」の人質となっている、ヨルダン人パイロットの名前のカタカナ表記に揺れがあります。「ミヤネ屋」では、
「ムアーズ・カサースベ」
で表記していますが、昨日(1月29日)のテロップの発注では、
「カサスバ」
で出て来ました。そこで、新聞各社の1月29日の表記を見てみたら、
(読売)=「ムアズ・カサースベ」
(朝日)=「ムアーズ・カサースベ」
(産経)=「モアズ・カサスベ」
と、表記に揺れがあるものの、最後は全部「ベ」です。
「毎日新聞」も、翌30日の紙面では
「カサスベ」
でした。(「日経新聞」は、パイロットの名前が出て来ませんでした。)
「なんで『バ』なの?もしかしたら、テロップ発注の手書きの文字が汚くて、『ベ』と『バ』を読み違えたのでは?」
とテロップ担当者に聞くと、
「きょう(29日)の日本テレビの昼ニュースのテロップが、『バ』でした。」
と言うではないですか!テレビ画面を撮影した写真を確認すると、確かに、
「カサスバ」
と「バ」になっています。そこで、日本テレビの「原稿」を確認すると、原稿は、
「カサスベ」
で「ベ」でした。ということは「テロップの打ち間違い」でしょう。そこで、
「うちは『ベ』で行く!」
としました。本当の発音はおそらく「ベ」と「バ」の中間のような音でしょうから、どちらでも間違いではないのでしょうが、ひとたび「カタカナ」にすると、
「どちらか一方が正しい」
となってしまいますね。これって、単一神信仰の原理主義的な感じですね。でも「規範」を確立しないと無茶苦茶になってしまうというのも確かで、難しいところです。
もう一つ、カタカナ表記での「-」(長音符号)は、必ずしも「伸ばす」ことを意味を表すのではなく、
「そこにアクセントがある=強く読む」
ことを示す場合にも使われています。
例えば、ロシアの、
「プーチン大統領」
のカタカナ表記は、当初、
「プチン」「プーチン」
の両方ありました。アクセントが「プ」にあり、そこを強くアクセントをつけて読むと、ちょっと長く聞こえるので、それを「-」で表すかどうかは、
「アクセントがあるだけで、伸ばしてはいない」
という判断を下す社は「プチン」、
「いや、アクセントがあるために、少し長めになっていて『-』を使ったほうが現地の発音に近い」
という社は「プーチン」。その両方があったのでしょうね。
最終的には、目で見たときに「-」があるのとないのではイメージが変わって、
「別人なのかと思ってしまう」
と判断されて、
「『プーチン』に統一」
されました。その後も「何度も出て来る名前」に関しては、こういった「統一」がされます。しかし、おそらくヨルダンのパイロットの名前が出て来るのは「この事件だけ」でしょう。そういう場合は、「揺れ」が残ったままで、過ぎ去ってしますのですね。
(2015、1、30)
(追記)
1月30日夕方の関西テレビのニュース番組では、
「モアズ・カサスベ」
とどちらも伸ばさない、「産経新聞と同じ」パターンでした。