新・ことば事情
5662「東寺のアクセント」
毎月「21日」は「弘法大師・空海の命日」ということで、「市」が立ちます。特に一年の初めの「1月21日」は、
「初弘法」
と呼ばれてにぎわいます。(1年の最後の「12月21日」は「終い弘法」)
今年の1月21日の「初弘法」の市の様子を、
「京都の東寺」
で取材したものが各局流れていました。さて、この、
「東寺」
の読み方・アクセントが気になります。
そこで関西各局の知り合いのアナウンサーにメールして尋ねてみました。
『京都の「東寺」ですが、このアクセント、皆さんは放送でどう読まれるでしょうか?また、アナウンス部内でアクセントを統一されていますか?
(1)「ト\ージ」(頭高)
(2)「ト/ージ」(平板)
ちなみに、私は「頭高」の「(1)ト\ージ」ですが、
きょうの読売テレビのお昼のニュースを読んだ林マオアナウンサーと、夕方のニュースを読んだ中谷アナウンサーは、ともに、
(2)「ト/ージ」
でした。お昼のニュースではABCさんとNHKさんは、
(1)「ト\-ジ」
でした。よろしくお願いします。」
皆さんから、続々とお返事のメールを頂きました。
【関西テレビ・Iアナウンサー】
私も「頭高」。「平板」だと「冬至(ト/ージ)」のイメージ。「平板」派の人は、「頭高」だと「当時(ト\ージ)」みたいだと思うかもしれないが。
【関西テレビ・Tアナウンサー】
手元にある『明解日本語アクセント辞典 第二版(81年)』では、道浦さんと同じ「頭高」で掲載されている。写真を添付します。
【MBS・Kアナウンサー】
「頭高」です。
【MBS・Tアナウンサー】
「当時」と区別したくて「平板アクセント」で読んだほうが落ち着く。私どもMBSの気象キャスター「今出東二(いまで とうじ)」さんの名前は「とうじ」を「頭高」で読むので「今出さんとは違うアクセント」と覚えるようにしている(笑)。京都の東寺に電話して問い合わせたところ、「その質問には、二十四節気の『冬至(ト/ージ=平板アクセント)』とは違うアクセントでとお答えしている。東京の方が『ト/ジ』(平板)とよく言われるのだが、それだと『冬至(ト/ージ=平板)』といっしょになるので、『ト\ージ』(頭高)でとお願いしている。厳密には『ト/ー\ジ』(中高)のイントネーションが、地元の呼び方に近い」とのこと。
【KBS京都・M元アナウンサー】
かつてアナウンサーとニュースデスクをしていた関係から、「東寺のアクセント」について私がニュースデスクとして判断したことをお伝えする。京都の人は、「東寺」を「中高」で発音する。これは、さすがにニュースでは、視聴者・聴取者に違和感を与えるアクセント。従って、「頭高」か「平板」「尾高」となるが、「東の寺」という意味合いから、理論的には「頭高」と判断した。従って弊社では「頭高」を用いている。ちなみに、NHK京都放送局も、ずいぶん前から「頭高」のアクセント。NHKに理由を聞いたことはない。いずれにしても、京都の人は「頭高」を変なアクセントと感じていると思うが、どこかに落とし込まないといけないので「頭高」を貫いている。
【サンテレビ・Kアナウンサー】
サンテレビのニュースでこの言葉を読むことはほぼ無いが、京都に住んでいた、又は近隣に在住というアナウンサーに聞いてみると、皆「頭高」としているようだ。
【読売テレビ・川田裕美アナウンサー】
「頭高」で読む。
【読売テレビ・清水健アナウンサー】
「頭高」で読む。
【読売テレビ・中谷しのぶアナウンサー】
「平板」で読んだ。
【読売テレビ・林マオアナウンサー】
「平板」で読んだ。アナウンス部に戻ってからこの話をしたが、そこにいたアナウンサーは「ほぼ半々」といった感じだった。やはり固有名詞は特に難しい・・・。その都度その都度確認し議論しても、地元の人はこう読むのに、標準語にあわせなければいけないことにも、正直、私は抵抗がある。できれば、地元で愛されて呼ばれ続けているアクセントに沿って読むべきではないのかなと思うのだが、地元でも呼び方がバラバラということもあるし。何年経ってもアクセントは難しいし、奥が深い。
【読売テレビ・立田恭三アナウンサー】
「頭高」で読んでいる。
【読売テレビ・森若佐紀子アナウンサー】
知らずに「平板」で読んで、「『頭高』だよ」と訂正された記憶があるので、「頭高」で読むようにしている。「清水寺」「嵐山」と並ぶ「要注意アクセント」。
また、私(道浦)が調べたところ、NHK放送文化研究所が出している『放送研究と調査』(2014年2月号)に、ちょうど「東寺」のアクセントに関して載っていたので、抜粋します。(筆者=塩田雄大氏)
*「地元の地名のアクセントについて」
「地元でのアクセント」と「共通語でのアクセント」とで異なる場合には、どうしたらよいか?という質問を受けたが、これに関する考え方は、
「NHKの放送でのアクセントは、共通語の範囲内で再現できるものを用いる事を原則とします。『地元でのアクセントか共通語のアクセントか』について考える場合、2段階に分けてみる必要があります。
①地元のアクセント:共通語としてはむずかしい
地元のアクセントを完全に再現することは、きわめてむずかしいものです。たとえば「東寺」は、以下の3つのアクセントが考えられます。
伝統的な京都方言 :「ト/オ\ジ」(中高)
この発音を元にした共通語的発音 :「ト\ージ」(頭高)
(共通語話者の無意識的な発音) :「ト/ージ」(平板)
このうち、伝統的な形である「ト/オ\ジ」(中高)は、共通語のアクセントとしてはふつう現れない型です。
(中略:このあと「西宮」「尼崎」の例を挙げています)
②地元的なアクセント:共通語でも可能
たとえば「ト\ージ」(頭高)は、「ト/オ\ジ」(中高)という地元アクセントそのものではありませんが、共通語話者にも発音できる、地元の発音に近いアクセントだと言えます。こうしたものの例として『NHK日本語発音アクセント辞典』巻末p11に次のような例が挙げられています。
(中略:名寄・青森・長野・栃木・河内・呉・萩・高知の8つの地名の地元でのアクセントと、共通語アクセントの違いを例示)
現在では「地名のアクセントについては、全国放送では共通語アクセントを用いるが、地域放送では地元視聴者の要望が強い場合には、地元アクセントを用いてもよい」ことにしています。また、1つの番組内で複数の言い方が混在しているのはよくないと考えられる場合には、個別の番組として「ここでは、どちらかのアクセントで統一する」というように決めても、いっこうにかまいません」
ということでした。
そして、実は私も「東寺のアクセント」について書いているのも思い出しました。
2006年12月に書いた「平成ことば事情2769 東寺とはぼたん」です。
ぜひ、お読みください。
(追記)
2月18日に「近鉄電車」に乗りました。その際の「東寺」の車内アナウンスのアクセントが、
「ト\ージ」
と「頭高アクセント」でした。
(2015、3、11)