新・ことば事情
5648「こっくり甘い」
駅の自動販売機で、
「こっくり甘い」
という表現を目にしました。初めて見た表現です。「こっくりと」は以前見たことがあったような気がするなあ。
検索してみると、「平成ことば事情915こっくりと」が出て来ました。2002年の11月です。それは、
「わたは、そーっと、つぶさないで煮はじめる。自然にはじけるのを待とう。生臭くなく
こっくりと でき上がるよ。」(「オレンジページ」2002・9・17号26ページ、いかのわた煮)
のように、
「じっくりと染み込んだ」
というのと、
「こくがある」
を合わせたような意味での「こっくりと」が使われていました。
『広辞苑』には「こっくり」が、
(3)色などが、じみに落ち着いて上品なさま。食物にうまみがあって味わいが深いさま。
と書かれていました。
これか!
日経新聞で土曜日に連載されているコラム「食語のひととき」で、調理学研究者の早川文代さんは、2002年11月9日の紙面で、この「こっくり」を取り上げています。
「この季節になると、料理の表現で『こっくりと煮込んだ』というのを目にする。なんとなくおいしそうな響きがあるが、『こっくり』とは何を表すのか。日常的に使う言葉ではないが、見たり聞いたりすると語感がよい。例えば作家の北畠八穂氏は『クルミモチのコックリした味』、料理人の小山裕久氏は『濃い口しょうゆでこっくり炊いた煮物』と使っている。もともとは深みのある上品な色合いのことを言った。江戸時代には着物の色や柄に上品な落ち着きのある様子を『こっくり仕立て』と呼んだ。また、明治時代に人気を博した小栗風葉の小説『青春』では『葡萄(ぶどう)色のこっくりとした羽織』と使われている。やがて、こっくりは味の深みも表すようになった。しょうゆやみりんであめ色に煮付けた物をこっくりと表現するうちに、味にも広がったのだろう。(後略)」
とちょっと長い引用になりましたが、書いてあります。もとは食べ物には使われなかったのですね。使われ方にも、「こっくりと」した歴史がありますね。
『日本国語大辞典』でも、「こっくり」は、
「色合いや味などが、濃かったり深みがあったりするさまを表す語。」
と書いてあります。
2004年9月5日の日経新聞掲載の川上弘美さんのコラム「此処彼処(ここかしこ)」にも、
「皮つき豚の煮込み。トマト味の米料理。パンの実のスープ。マダガスカルふうの、質素だがこっくりとした献立だった。」
と、「こっくりと」が出てきました。
2005年6月18日の朝日新聞夕刊の記事。画家のマツモトヨーコさんが書いたコラムの中の色の表現の中にも、
「こっくりとした茶」
という「色の表現」で出て来ました。それらに次いで、今回、
「野菜ジュース」
の用例が出て来たということですね。