新・ことば事情
5613「高齢化率が最悪」
12月10日の「関西情報ネットten.」で、「高齢化が進む大阪市西成区の問題」を特集で取り上げていました。その中の、
「西成区の高齢化率は、大阪市内最悪の36%」
というフレーズが引っかかりました。
「高齢化率が最悪?」
「高齢化率が高い」のは、「悪」なのでしょうか?
「失業率」「事故率」「犯罪発生率」
などは明らかに、
「望ましくない出来事=悪」
ですから、この率が一番高いと「最悪」でしょう。
しかし、「高齢化」とは「悪い」ことなのでしょうか?
「高齢化」に伴ういろいろな不便な出来事、困ったことはあるでしょう。しかし、
「高齢化率=人口における高齢者の割合」
が高いことを、
「最悪」
と呼んだら、秋田県や島根県、高知県は「最悪の県」になってしまいます。
が、普通そんな風には言いません。失礼にあたりますから。
「良い・悪い」
という価値基準を、ここに持ち込むのは、おかしいのではないでしょうか。
たぶん「そんな意識はなかった」のだと思うのですが、その「意識がないこと」がまた問題だと思います。
ここは、
「西成区の高齢化率は、大阪市内で最も高い36%」
が妥当な表現だと思いました。
(2014、12、10)
(追記)
そのあと、よく考えてみたら、「最悪」という言葉は、実は、
「『当事者サイド』から出ているのではないか?」
つまり、
「自分たちが、いかにひどい状況にあるかをアピールするための表現」
でもあります。
だから、もしかしたら取材先の西成区関係の人がそう言っていたのかもしれません。それを、そのまま受け入れて使ってしまったということも考えられます。それだけ、
「弱い立場の人たちに寄り添う取材」
ということが言えるのかもしれません。しかし取材をする際は、
「取材先と一体化」
してしまってはいけません。もちろん、思い入れはあるかもしれませんが、あくまで、
「中立・公正の立場」
で判断して報道する姿勢がなくてはいけません。
その意味では、やっぱり「最悪」という表現を使っちゃダメだな。