元青森放送のアナウンサーで、現在アナウンス学校の先生をされている大先輩からメールが届きました。
「先日、若手アナの間で『日本鹿』のアクセントをどこに置くかで議論をしていたのを耳にしました。対立していたのは、『日本鹿(ニホン+ジカ)』を、
『日本海』『日本一』『見本市』
などのように『ホ』にアクセント核を置くべきだと意見、『中2高』です。それに対して、
『日本人』『日本猿』『手長猿』
などは、『~ジ』『~ザ』『~ザ』といずれも『中4高』にアクセントがあるのではないか?といった声でした。小生も、
『複合名詞の前部が漢字2字以上、後部が漢字1字、2拍名詞のものは、原則として
前部の最後の拍まで高い』
という規則から、『日本鹿』は
『ニ/ホンジ\カ』
のように『中4高』で下降するのが適切と考えますが、如何でしょうか?
『後部要素は1拍、2拍の場合は"平板型"』
という規則もあるようですが...。(例)日本犬、日本髪、日本間、日本画 日本晴れなど」
うーん、難しい問題を・・・。
一応いろいろ考えて、こんな返事を出しました。
「さて、お尋ねの件ですが、私の結論から言うと。
『ニ/ホ\ンジカ』あるいは『ニ/ホン\ジカ』
です。
『ニ/ホンジ\カ』
は難しいのではないかと。
理由は、『日本+鹿』という複合語の主体は『鹿』である。『鹿』のアクセントは『シ/カ』と『平板アクセント』であり、複合語になってもその形が出来るだけ残されるほうが望ましい。まだ『日本鹿』という複合語は、『1語』となってしまうほど認識されていないと考えられ、それ故にコンパウンドはしない。コンパウンドして『ニ/ホンジ\カ』となってしまうと『シ/カ』(平板アクセント)は維持されず、『頭高アクセント』になってしまうので好ましくない。
『鹿』の種類で、
『○○ジカ』
という複合語を『広辞苑』から挙げてみると、
「オオジカ」「オオツノジカ」「オジカ」「ケラマジカ」「ジャコウジカ」※「ニホンジカ」「ヘラジカ」「ホエジカ」
「マメジカ」「メジカ」「ヤベオオツノジカ」「ヨツメジカ」
でした。これをアクセント別に分類すると(「ニホンジカ」を除く)、
【平板】「オ/ージカ」「オ/ジカ」「ヘ/ラジカ」「ホ/エジカ」「マ/メジカ」「メ/ジカ」
【中高】「ヤ/ベオオツノ\ジカ」「ヨ/ツメ\ジカ」「オ/オツノ\ジカ」「ケ/ラマ\ジカ」「ジャ/コ\―ジカ」
になると思います。(私の区分では)
一つも『○/○○ジ\カ』となるものはありません。
『NHK日本語発音アクセント辞典』を引いて、載っている単語のみ確認すると、
【平板】「オオジカ」は無くて、濁らずに「オ/ーシカ」。
【平板&頭高】「オ/ジカ」・「オ\ジカ」、「メ\ジカ」・「メ/ジカ」
【中高】「ジャ/コ\―ジカ」
ついでに、
『○○シカ』
と『シカ』が濁らないものは、
「アカシカ」「ウシカモシカ」「エゾシカ」「カモシカ」「サオシカ」「ヌマシカ」「マオシカ」「ヤクシカ」
でした。これをアクセント別に分類すると、「ウ/シカモ\シカ」(中高)以外は、
「ア/カシカ」「エ/ゾシカ」「カ/モシカ」「サ/オシカ」「ヌ/マシカ」「マ/オシカ」
「ヤ/クシカ」
と全て『平板アクセント』だと思いました。
『NHK日本語発音アクセント辞典』を引くと、載っていたのは、
【平板】「カ/モシカ」
だけでした。
つまり『○○○シカ』のアクセントは、『○/○○シカ』(平板)、もしくは『シカ』の『シ』の前でアクセントが降りる、
『○/○○\シカ』(中高アクセント)ではないでしょうか?
次に『動物の名前』の前に『日本』が付く形の『2音』の動物の名前を考えてみましょう。一番分かりやすいのは『桃太郎』のお供の動物、つまり、
『サ\ル』(頭高)・『キ/ジ』(平板)・『イ/ヌ』(尾高)
です。いずれも『2音』です。この前に『日本』を付けると、
「ニ/ホンザ\ル」・「ニ/ホ\ンキジ」(or「ニ/ホン\キジ」)・「ニ/ホ\ンイヌ」(or「ニ/ホン\イヌ」)
となります。(「犬」は「ケン」と音読みせずに元の意味を残した「イヌ」にしました。音読みと訓読みでも、アクセントが変わることもあると思います。)
確かに『ニ/ホンザ\ル』は『ザ\ル』となりますが、これは最初から『サ\ル』という『頭高アクセント』であり、それを保存しているのでしょう。
これに対して、『キジ』(平板)、『イヌ』(尾高)は、複合語になるので、そのまま『平板』『尾高』ではないですが、少なくとも『(ニ/ホン)キ\ジ』『(ニ/ホン)イ\ヌ』とはならないでしょう。よっぽど人口に膾炙すれば、なるかもしれませんが。
昔は、
『赤とんぼ』
のアクセントが、
「ア\カ」+「トンボ」→「ア\カトンボ」(頭高)
で、『赤』のアクセントを残していましたが、複合語として定着することでコンパウンドして、
「ア/カト\ンボ」
になったように、『日本鹿』もなるかもしれませんが、現時点ではまだそこまでは定着していないように思います。
(青森では、大阪よりは定着しているかもしれませんが、それでもまだそれほど定着していないからこそ、こういった議論になるのでしょう)
『NHK日本語発音アクセント辞典』で、
「日本○○」
の読み方で分類してみると、
(1)「ニホン」とだけ読むもの
=日本画、日本海、日本海溝、日本髪、日本酒、日本茶、日本脳炎、日本風、日本間、日本物、日本料理
(2)「ニッポン」とだけ読むもの=なし
(3)「両方」載せているもの
=日本銀行、日本語、日本犬、日本三景、日本史、日本紙、日本式、日本人、日本製、日本男児、日本刀、日本晴れ、日本文学、日本歴史、日本列島
となっていました。
これらのアクセントを分類すると、
【平板】日本画、日本画家、日本髪、日本犬、日本語、日本式、日本酒、日本製、日本茶、日本刀、日本晴れ、日本風、日本間、日本物
【中高】日本海、日本海溝、日本海流、日本記録、日本銀行、日本三景、日本人、日本男児、日本脳炎、日本文学、日本料理、日本歴史、日本列島
【平板・中高両方あるもの】日本史、日本紙、
でした。
このうち『中高アクセント』で、『ニ/ホン○\○』の形を取っているものは、『「日本海」以外の全ての単語』でした。
逆に『ニ/ホ\ン○○』の形を取っているのは、『日本海』だけでした。
<結論>
『日本+○○』という複合語を考えた場合に、NHKアクセント辞典では圧倒的に『ニ/ホン○\○』が多いのですが、
『○○+鹿』という複合語に注目した場合には、『○/○○ジカ』『○/○○\ジカ』が多い。
それがぶつかった場合に、どちらが優先されるのか?ということではないでしょうか。
今回はこんなところでいかがでしょうか。ではまた。。。」
これ、まだまだ議論は続きそうですねえ・・・。
(2014、12、4)