新・ことば事情
5599「アジアゾウとインドゾウ」
11月17日の読売テレビのお昼のニュースで、ラオスから京都市動物園に贈られた「アジアゾウ4頭」が、関西国際空港に到着したと伝えていました。
それを聞いて、
「アジアゾウって、インドゾウって、どう違うんだろう?」
という疑問が出ました。調べてみると、『精選版日本国語大辞典』で「インドゾウ」を引くと、
*「インドゾウ」→アジアぞう(象)
と、「空見出し」になっていました。そこで「アジアゾウ」を引くと
*「アジアゾウ」=ゾウ科の哺乳類。アフリカゾウより小形で、特に耳が小さい。牙は普通雄だけに見られる。インドからマレー半島、スマトラ島に分布。飼育され、運搬等に使われる。インド象。」
とありました。ということは、昔は「インドゾウ」と呼ばれていたものが、今は「アジアゾウ」と呼ばれることになったのか、もしくはインドにいるゾウが「インドゾウ」で、それ以外のアジアにいるゾウが「アジアゾウ」なのか?
子どもの頃に読んだ絵本で、戦争中、東京の上野動物園で飼育していた猛獣が、もし空襲で動物園が焼けて逃げ出したら危険だということで毒殺されたという悲しいお話がありましたが、あの時に、賢くてなかなか毒入りのエサを食べなかった「ゾウの花子」は、
「インドゾウ」
だったような気がします。調べてみたら、
「1941年(昭和16年)8月11日には、陸軍の指示に応えて、上野動物園が『動物園非常処置要綱』を作成し、空襲の危機があれば動物を察処分にすることになり、一連の殺処分の中で、3頭のインドゾウの処分は特に著名である。」
とありました。やっぱりあれは「インドゾウ」だったんだ!
ネットで検索してみると、「札幌市円山動物園」のホームページでは、
「インドゾウ(アジアゾウ)」
という表記が。「富士サファリパーク」では、
「アジアゾウ」
とだけ表記。面白かったのは、ここにはアフリカゾウとアジアゾウがいるそうですが、どちらのゾウも、
「ゾウゾーンでご覧いただくことができます」
と書かれていました。「ゾウゾ-ン」って・・・。
また、『ブリタニカ国際大百科事典』の「ゾウ」の解説では、
「アジアゾウ」
が使われています。また「百科事典マイペディア」では「ゾウ」の項目の中に、
「アジアゾウ(インドゾウはアジアゾウの亜種)」
と書かれています。
他の国語辞典を引いてみたのですが、なんと『新明解国語辞典』には「アジアゾウ」「インドゾウ」はおろか、「アジア」「インド」「アフリカ」が見出しにありませんでした!ついでに「アメリカ」も「造語(要素)」としてしか載っていなかった!つまり「アメリカ合衆国」の意味での「アメリカ」は載っていないのです。これにはビックリですね。そんな基本的な言葉はきっと引かないだろうからと、落としたのか?
そして同じく小型辞典の『三省堂国語辞典』を引きましたが、さすがに「アジア」「インド」「アフリカ」は載っていましたが、「アジアゾウ」「インドゾウ」「アフリカゾウ」は載っていませんでした。残念。
『広辞苑』で「インドゾウ」を引くと、
「インドゾウ」=アジアゾウの別称。
とありました。やっぱりそうか!「アジアゾウ」も、もちろん載っていて、
*「アジアゾウ」=ゾウ科の一種。アフリカゾウより小形で耳も小さいが、肩高2,5~3,3メートルに達する。スリランカ・インド・タイ・マレー半島・中国南部・スマトラなどに生息。東南アジア各地で労働用に飼育。また、象牙を採るため乱獲され、絶滅に近い地域もある。インドゾウ。」
なのだそうです。グーグル検索では(11月17日)、
「アジアゾウ」= 21万9000件
「インドゾウ」= 9万9500件
「アフリカゾウ」=34万4000件
でした。
(追記)
NHKの原田邦博さんから、メールで情報を頂きました。
「ことし、スリランカに行った際、説明では『アジアゾウ』を使っていました。専門的には『スリランカゾウ』という言い方もあるようです。『インドゾウ』も、種類はほぼ同じということですが、最初の頃、インドから日本に贈られたゾウが多かったことから『インドゾウ』という言い方が広まったのではないでしょうか。なお、江戸時代に見世物になったのは『ベトナム』あたりから来たゾウで、上野動物園には明治21年(1888年)に『シャム王国』(今の「タイ」)からゾウが贈られています。ただ『シャムゾウ』という言い方はないようです。『タイゾウ』だと『原田泰造』みたいですが・・・。
最近、山口の徳山動物園に来たのは『スリランカゾウ』です。以前は『アフリカゾウ』の1つの『サバンナゾウ』がいたそうです。」
たいへん詳しい「ゾウ報」・・・ではなく「情報」、ゾウもありがとう・・・どうもありがとうございました!(ゾウ致しまして。)
(2014、11、19)