新・ことば事情
5576「自死」
2013年5月に開かれた新聞用語懇談会春季合同総会の席で、新聞社の委員から、
「5月7日に『全国自死遺族連絡会』という団体から、『自殺』ではなく『自死』という表現を使ってほしいという申し入れが来た。各社どのような対応をしているか?」
という報告というか質問がありました。参加した他の新聞社では、
「どのセクションの来たのかわからないが、西部本社からその旨の内容のものが転送されてきた」
という意見が出ましたが、それ以外の社には放送局も含めて、まだそういった申し入れは届いていないようでした。
「自死」
という言葉、字を見れば意味はわかりますが、見慣れません。使ったことはありませんが、先日読んだ、『そして、人生はつづく』(川本三郎、平凡社)という本の中で、川本三郎さんが、
「『「自死できないから生きているという状態」だったという。』
という文章で「自死」を使っていました。
会議よりも前の新聞のスクラップが出て来ました。2014年3月10日付「日本経済新聞」の夕刊で、見出しは、
「『自殺』→『自死』言い換え相次ぐ ~自治体、遺族感情に配慮
『現実隠す』懸念も」
というものでした。内容を読んでみると、公文書などで自殺を『自死』と言い換える自治体が相次いでいて、その理由は、
「『自殺』には命を粗末にしたという印象があり、残された者が一段と傷付くとの声が、一部の遺族から上がっているから」
だそうです。ただ、
「『自死』だとイメージを和らげることになり、予防の観点からは好ましくない」
という意見もあるようです。
「自死」に言い換えた自治体としては、宮城県がことし(2014年)1月から、鳥取県も去年(2013年)7月に、同様の変更をしたそうです。
こういった主張・呼びかけをしているのは、遺族約1700人で作る「全国自死遺族連絡会」(本部・仙台市:田中幸子代表)。冒頭に出て来た団体ですね。
また、「全国自死遺族総合支援センター」(本部・東京都千代田区:南部節子事務局長)では、去年10月、一律に言い換えるのではなく状況に応じた使い分けを提案するガイドラインを発表しています。
毎年3万人近くが、自らの命を絶っている状態が10年以上続いている、現代日本。「自殺」にせよ「自死」にせよ、遺族が「偏見」と思うような対応を取るのが好ましくないのは、言うまでもありませんね。ただ、放送では(新聞もそうだと思うけど)、視聴者や読者が理解しやすい表現を使うというのが原則ですので、すぐに「自死」という表現が一斉に使われるようになることは、ないのではないでしょうか。