新・ことば事情
5572「いち早い対応」
10月13日、台風19号の中継を見ていたら、朝日放送の高知・桂浜から中継していたリポーターが、こんな「しめ」のコメントを言いました。
「いち早い対応が必要です」
これに違和感が。もしこれが、
「いち早く対応することが必要です」
というように「いち早く」だと違和感がないのですが、それを、
「いち早い」
とすると、かなりヘンな感じがします。『広辞苑』で「いちはやく」を引くと、
「いちはやし」
を見よとなっています。「古語」がベースの『広辞苑』らしい。そのまま「いちはやし」を引くと、「形容詞ク」と活用の形が書いてあります。例文に出て来る活用した形は、
「いちはやし」「いちはやき」
という『伊勢物語』や『蜻蛉日記』の古文の例文が出ていて、現代文の意味は、5番目に、
「(連用形を副詞的に使って)他にさきがけてすばやく。(例)「現場にいちはやくかけつける」
と載っていました。現代文の用例で、「いち早い」はありませんでした。
『三省堂国語辞典』『新明解国語辞典』『岩波国語辞典』『精選版日本国語大辞典』『明鏡国語辞典』にも「いち早く」は載っていますが、「いち早い」は載っていません。ただ、古語の「いちはやし」は載っている辞書もあります。また「いち早く」の解説の中に、
「文語形容詞『いちはやし』の連用形の副詞化」
と書いているものもありました。
夕方の『関西情報ネットten.』のチーフプロデューサーで元アナウンサーのS君に、
「『いち早い対応』って表現は、ある?」
と聞いたところ、顔をしかめながら、
「ないですね」
と即答。S君いわく、
「たぶん、『素早く』は『素早い』とも言いますから、そこからの"類推"で出て来たんじゃあないですかね?」
とのことでした。なるほど!
台風中継では、各局アナウンサーや記者を総動員で中継を展開しますので、いろんな"新しい言葉"を使う人を見かけることができました・・・。