新・ことば事情
5546「『銀ブラ』の語源」
「銀ブラ」
という言葉があります。
「銀座をブラブラすること」
の略語です。ところが最近、この語源は間違いで、本当は、
「銀座でブラジルコーヒーを飲むこと」
の略語であるという話を、よく耳にするようになりました。
そうだったのか、知らなかった・・・
と思っていたら、『三省堂国語辞典』の編纂者で、早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんが、
「それは、間違い!」
とツイッターなどで否定してらっしゃいます。この「銀ブラ」という言葉が出来た頃には、まだ「ブラジルコーヒー」の喫茶店はできていなかったというのです。
こういった俗語を調べるには、梅花女子大学の米川明彦先生の『明治・大正・昭和の新語・流行語辞典』(三省堂)ですね。ひもとくと・・ありました!102ページ。
1916年(大正5年)の流行語だそうです。引用します。
「銀ブラ」=東京の繁華街銀座をぶらぶら歩くこと、このころから使われ出した。
とあり、一番古い記述としては『新しい言葉の字引き』(1918年)に、
「銀ブラ 銀座の町をぶらつく事」
とあるそうです。さらに、安藤更生『銀座細見』(1931年)には、
「銀座をー特別な目的なしに、銀座といふ街の雰囲気を享楽するために散歩することを『銀ブラ』といふやうになつたのは、大正四五年ころからで、虎の門の『虎狩り』などと一緒に、都会生活に対して、特別警抜な才能を持つてゐる慶應義塾の学生たちから生まれて来た言葉だ」
とあるそうです。ただ、当の慶應出身の池田弥三郎は、この説に否定的で、『銀座十二章』(1969年)の中で、
「われわれ慶應の学生仲間たちも、銀座へでも行こうかとは誘い合ったが、銀ブラでもしようか、とは言わなかった。『銀ブラ』とは、おそらく、社会部記者用語ではあるまいか」
と話しているそうです。
ただ、「銀ブラ」から派生して、大阪では、「心斎橋をブラブラそぞろ歩きすること」を、
「心(しん)ブラ」
「道頓堀をブラブラすること」を、
「道(どう)ブラ」
と言ったそうですから、やはり「銀ブラ」の「ブラ」は、「ブラジル」ではなく、
「ブラブラすること」
と考えてよさそうです。
しかし、最近出て来たと思われる「ブラジル説」は結構広がっているようで、先日読んだ漫画雑誌でも出て来ました。『ビッグコミックオリジナル9月増刊号』(小学館)で連載されている「シャカイの窓」(いとう耐)という漫画で、「銀ブラ」の語源について、以下のような、会社の上司と部下の女性の会話が出て来ました。
「知っとるかね、杉本クン、『銀ブラ』ってものは『銀座をブラブラ歩く』って意味じゃないんだぞ。」
「えーっ、そうなんですかー。じゃあどーゆー意味なんですか?」
「ヒント。『ブラ』はブラジルのブラだ」
「銀にブラジル・・・!?わかったっ!『銀行に寄ってから出社すると言って、ブラジルW杯(ワールドカップ)を観る』!!」
「・・・(ざわざわ)」
「そんなコトやっとったのか?」
「あっ、いえ。日本戦だけですよ・・・・あとポルトガルとイタリア・・・」
そして最後に作者の説明として、
「『銀座でブラジルコーヒーを飲む』だそーです・・・・」
とありましたが、違いますよー!いとうさん!!