新・ことば事情
5539「ひばる」
広島市の大規模な土砂災害の被害は、8月22日午前の段階で、死者39人、行方不明者は少なくとも51人となっています・・・。
8月21日の「ミヤネ屋」で、被害に遭われた方のご自宅を取材させてもらった映像で、その40歳の男性の方が、こう話していました。
「窓ガラスが"ひばって"いて、危ないからこっちに来いと」
この中の、
「ひばっていて」
の意味が分かりませんでした。そのままコメントフォロー・スーパーとして出すわけには行きません。広島弁が分かる人に聞いてみよう!ということで、社内の広島出身の人に聞いてみたところ、
「私も、もう広島を離れて30年ほどになるので、正しいかどうかはわかりませんが・・・」と言いながら、
「『ひばる』というよりは『ひわる』と言いますが、『たわむ』とか『まがる』『ゆがむ』のような感じですかねえ。」
と言います。ニュアンスはわかりました。念のため『精選版日本国語大辞典』を引くと、なんと「ひわる」が載っていました!
「ひわる」=ひびや割れ目がはいる。割れる。
そうか!「ひび割れる」か!それだと文脈がつながる!用例は、
*『新撰字鏡』(898-901頃)「比波留」
*『源氏物語』(1001-14頃)真木柱「柱のひはれたるはざまに」
と古いものがあり、さらに「補注」として、こう書かれていました。
「(1)後世、『干割る』と混同された面があるが、『新撰字鏡』の表記などから判断して、本来は『ひはる』であり、その語源は定かではないが、あるいは『ひ』は『ひび』『ひま』などの『ひ』と同じで割れ目の意、『はる』は田畠を切り開く『はる(墾)』に対する自動詞で切り裂けるの意であったかっとも思われる。
(2)『観智院本名義抄』に『圮 ヒバル』、『色葉字類抄』に『拆 ヒバル』という濁音表記も見られるところから、本来『ひばる』であったものが、清濁の表示不十分であったため『ひはる→ひわる』とよまれ、意味の近似も手伝って、しだいに『干割る』のように意識されていったとも考えられる。」
ふーむ、そんなに歴史のある「古語」が、広島方言では「現代語」として生きているんですね!これも柳田国男の「方言周圏論」の一例なのかもしれませんね。
結局「ミヤネ屋」のコメントフォロー・スーパーでは、「ひばって」を、
「ひび割れて」
に置き換えて出しました。