新・ことば事情
5478「『1Q84』の『Q』」
中村うさぎさんと佐藤優さんの対談本『聖書を語る』(文春文庫)を読んでいたら、キリスト教の「4つの福音書」(=マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)のほかに、新約聖書で最初に成立したとされる「マルコの福音書」と同時期に、
「業界用語で『Q』と呼ばれる『謎の福音書』」
があるのだそうです。「Q」はドイツ語の「クヴレ」(=「資料」という意味)の頭文字で、イエスの原稿に関する文書資料だとのこと。佐藤優さんによると、
「マルコ、マタイ、ルカの3つの福音書を『共観福音書』といい、これらは同じ歴史観、同じアプローチによって書かれており、カトリック・プロテスタントに影響を与えたのに対して、『初めに言葉があった』で有名な『ヨハネによる福音書』は、全く別の世界観に基づくテキストで、ロシア正教など東方教会に大きな影響を与えた」(27-28ページあたり)
のだそうです。しかし、この「Q」のオリジナルは散逸してしまって今はないとのこと。まさに「謎」です。
それを読んで思い当ったのは、
「村上春樹さんの『1Q84』」
です。あの「1984年」を舞台にした小説は、ジョージ・オーウェルの近未来の全体主義社会・監視社会を描いた小説『1984年』をイメージしていたと思っていたのですが、なぜ「9」を「Q」にしたのかはわからなかった。もしかしたらこの「謎の福音書Q」をイメージしていたのではないか?と思ったのです。
さらにこの『聖書を語る』を読み進んでいくと、まさに「村上春樹の『1Q84』」について語られていました!(59ページ~)佐藤さんいわく、
「村上春樹さんの『1Q84』の英訳が出たら、ヨーロッパで神学や西洋古典の素養のあるインテリたちは、きっとQ福音書のことを想起すると思う。日本語だと『9』と『Q』 の音は同じだけど、英語だと『ナイン』と『キュー』で連想は働かない。でも『Q』は幻の福音書を連想させるはずです」
そうだったのか!
中村うさぎさんも、
「『1Q84』では女主人公の青豆が、現実の1984年の世界から1Q84年の世界へとスリップするけど、これまでの聖書の世界がQ福音書の世界へと言うわけか・・・」
と感想を漏らし、更に佐藤さんが、
「実は『1Q84』と聖書には符号する部分がいっぱいあるんです」
と、もう一度『1Q84』を読んでみたくなるような"ネタふり"をしています。
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