新・ことば事情
5437「心臓ハクハク」
エッセイストの青木るえかさんの本『定年がやってくる~妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)を読んでいたら、こんな表現が出て来ました。
「『金曜スペシャル』や『独占!女の60分』で、ちらっと乳首が出るぐらいのことで心臓ハクハクさせたものだというのに」(158ページ)
この中の、
「心臓ハクハク」
という表現が目新しい。初めて見ました。これに濁点が付いて、
「心臓バクバク」
は見たことがあります。「平成ことば事情」でも書いたと思います。(3年前に書いていました。平成ことば事情4361「心臓がバクバクする」)しかし「ハクハク」は初めてです。
グーグル検索では(5月3日)
「心臓」「ハクハク」=1万5600件
「心臓ハクハク」 = 601件
「心臓がハクハク」 = 2870件
「心臓」「はくはく」=6万0700件
「心臓はくはく」 =1万2500件
「心臓がはくはく」 = 513件
思ったより出て来ました。「ハクハク」「はくはく」単独では、
「ハクハク」= 4万1200件
「はくはく」=79万9000件
でしたが、これらはほかの意味の「ハクハク」「はくはく」が相当数含まれていると思われます。
ニュアンス的には、「バクバク」は、心臓の鼓動が「100メートルを全力を走った後」のように"強い"のに対して、「ハクハク」は、濁点がない分、もう少し「心室細動」的に(?)微妙なドキドキ感を表すのかなあという気もします。『精選版日本国語大辞典』で「はくはく」を引くと、
「白白」「薄薄」
の2語が出て来ましたが、「心臓ハクハク」の「ハクハク」の意味ではないようです。
もしや載っているのでは...と思い、『三省堂国語辞典・第7版』を引くと・・・「ハクハク」は載っていませんでした。「心臓がバクバクする」は「俗語」として載っていましたが、それよりも新しい表現なのでしょうかね?
(追記)
視聴者の方からメールを頂きました。
「道浦アナのブログを毎回楽しく見させていただいております。その中の『新・ことば事情5437心臓ハクハク』の項にて、気になる表現がありましたので、指摘させていただきます。心臓の拍動を議論している際に、弱い微妙なドキドキ感を表す例として『心室細動』を挙げられておりますが、心室細動の場合は、ドキドキはしません。心臓が小刻みに震えて痙攣している状態です(心停止に近い)。そのため、ここでの使用はニュアンス的に間違いであるかと思います。多くの人が目にする場であり、言葉のプロとして注目される存在でありますので、訂正が望ましいと思います。」
なるほど、「心室細動」は「心臓が小刻みに震えて痙攣している状態」なのですね。私も「ドキドキ」のように心臓の脈動感が「少ない」という意味で、
「微妙なドキドキ感を表す」
と書いたのです。「ドキドキ感」と「実際の脈動の『ドキドキ』」は違うと思いますね。その比喩として、
「心室細動的に(?)」
と(?)を付けて書いたので訂正するほどのことはないと思うのですが、比喩が誤解を招いたのであれば、この比喩は外すことにいたしましょう。ご指摘ありがとうございました。
(「心室細動」の擬態語としては、「プルプル」等のほうがふさわしいのでしょうかね?)
(2014、5、15)