新・読書日記
2014_062
『知ってても偉くないUSA語録』(文藝春秋社、町山智浩:2014、4、20)
1月に読んで、「読書日記013」に書いた『ファビラス・パーカー・ボーイズの地獄のアメリカ観光』以来の町山智浩作品。『週刊文春』の連載「言霊USA」は、毎週は読んでいないが、こうやって一冊になった方が読みやすい気もする。『文春』の連載は、以前は1ページだったが、今は見開き2ページ。というのも、やはり「澤井健画伯のイラスト」が、このコラムの面白さを倍加させているから、そのイラストも十分に楽しめるようにということであろう。
「この本を読んでもちっとも英語の勉強にならない」...と怒る人がいる、とまえがきに書いているが、そりゃそうでしょう。まっとうな英語は出て来ない。もっと深い英語が出て来る。だから面白い!わたしは「試験に出る英単語」よりも「試験に出ない英単語」の方が好きです。
澤井画伯のイラストで一番笑ったのは、66ページの「アメリカ南部にいるのは(ホラー映画では)こういう人たちです」というもの。そこに描かれている人は、ヴァンパイア、悪魔つき、一家全員殺人鬼・・・ってどんなんやねん!と「突っ込み」入れ放題です!
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(2014、5、7読了)
2014年5月18日 12:25
新・読書日記
2014_061
『星間商事株式会社 社史編纂室』(三浦しをん、ちくま文庫:2014、3、10)
またまた三浦しをんさん、「ニッチ」な所に目を付けましたよ!「社史編纂室」。重要ではあるものの、「経営」や「商売」とは直接の関係なく、よく「左遷」された人が追いやられる部署・・・という悪いイメージがありますが・・・私は重要な部署だと思いますけど。そして、BL(ボーイズラブ)の女性のおたくの「同人誌」!「同人誌」が21世紀にも生き残るとは思わんかった!
そんな所にスポットライトを当てながら、スリルとサスペンスを降り込んで、魅力的な登場人物が織りなすドラマ・・・こういうのが得意ですよね、三浦さんは!まあ、おもしろく読めてしまいます!彼女が「この本で言いたかった一言」は333ページの、これじゃないのかな。
「紙に記されたひとの思いは、時間を超えていつかだれかに届く。燃やしつくすことも、粉砕しつくすこともできない、輝く記憶の結晶となって。」
電子書籍じゃ、ダメなのよ!!!
それ以外に言葉で引っかかったのは、
「彼氏さん」(152、189ページ)
「マカロン」を「マカロニ」と間違うオヤジ(137、280~281ページ)
「板長」(154ページ)
「板さん」(161ページ)
「かねて(覚悟はしていた)」(200ページ)
「かねてよりの打ち合わせどおり」(284ページ)
「闘いの火蓋を切って落とす」(209ページ)
「含み笑う」(223ページ)
「俺がロハで引き受けてやるって」(278ページ)
「朝からいやな汗をかいた」(312ページ)
「偏頭痛」(318ページ)
「おー、おかえり」「ただいま・・・ていうか、洋平のほうこそ『おかえり』でしょ」(320~321ページ)
ということでしたあ!
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(2014、5、3読了)
2014年5月 7日 18:22
新・読書日記
2014_060
『精神病とモザイク~タブーの世界にカメラを向ける』(想田和弘、中央法規:2009、6、30初版・2009、7、24初版第2刷)
映画「選挙」の監督で「観察映画」を標榜している想田和弘の著作。この本は、もう5年前に出ていたのだが、知りませんでした。「選挙」の後の映画「精神」をどうやって撮ったかを書いてあります。岡山の精神病院で患者さんを撮った映画。「モザイク」は一切なし。精神病の患者さんたちは顔を堂々と出してインタビューに応じているのだそうだ。しかし、映画公開前になって「やっぱり・・・」というような事態が起きたり、様々な問題に直面しての葛藤は、とても参考になった。闘っている。斬り込んでいるなあと感じた。
「飛ぶための準備は念入りにしてきたはずなのに、いざ羽を広げて眼下を見下ろすと、足がすくむ。しかし、それこそが『タブー』の本質であり、核心である。」
なるほど。
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(2014、4、29読了)
2014年5月 7日 12:18
新・読書日記
2014_059
『日本語スケッチ帳』(田中章夫、岩波新書:2014、4、18)
2012年の「読書日記036」で、前著『日本語雑記帳』(岩波新書:2012、2、21)を紹介しましたが、その際に、
「著者は御年90歳の日本語学者。元・国立国語研究所の研究員でもある。」
と書いた。が、訂正させてください!「1932年生まれ」だそうですから、当時は、
「御年80歳」
でした。これはねえ、岩波新書の「奥付が間違っていた」んですよ!プンプン。
いま、修正します。
その本から2年、「雑記帳」に続いて「スケッチ帳」。いろいろと「言葉」の雑感をちりばめた雑学が満載!「お・も・て・な・し」に始まって「ウッソー!」「ホント?」、意味が変わりつつある「鳥肌が立つ」「君子豹変」、昔は「男」にも使った「なでしこ」。人名と地名、スポーツの言葉、文体・表現・敬語、翻訳の世界、外国語から外来語・・・と盛りだくさん!まさに「言葉のスケッチ帳」である。「スケッチブック」ではなく「スケッチ帳」にしたのは、前著が「雑記帳」だったから、それにあわせたんでしょうね。
硫黄島に散った栗林中将の「散るぞ悲しき」を、大本営が「悲しき」は女々しいとして「散るぞ口惜し」に直してしまった話。でもこれって「~ぞ○○き」という「係り結び」なのに「散るぞ口惜し」ではこの「係り結び」が無くなってしまっていると。その並びで、1949年シベリア抑留から復員して来たプロ野球・水原茂選手の手記のタイトルが、
「よくぞ還れり」
だったのを見て、田中さんは、
「係り結びが違ってらぁ」
と言ったという。(正しくは「よくぞ還れる」=連帯形結び)
それを見て私は、慶応大学の応援歌「我ぞ覇者」(藤浦洸作詞・古関裕而作曲=1946年)の中に、
「よくぞ来たれり 好敵・早稲田」
という一節があることを思い出した。この、「よくぞ来たれり」も、本来は、
「よくぞ来たれる」
なのかな?わかりませんが。勉強になる一冊です。
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(2014、27読了)
2014年5月 6日 21:17
新・読書日記
2014_058
『頭の悪い日本語』(小谷野敦、新潮新書:2014、4、20)
"あの"小谷野敦が、「気になる日本語」を次々と「斬る」!
大体は、知っている言葉だったが、中には「そうだったのか!知らなかった」というものも。ここまでたくさん斬っていくのは大変だなあと思いました。
呉智英の影響を強く感じ、その意味では、私と共通感覚もありました。コンパクトで勉強になる一冊です。
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(2014、4、22読了)
2014年5月 6日 18:16
新・読書日記
2014_057
『定年がやってくる~妻の本音と夫の心得』(青木るえか、ちくま新書:2014、4、10)
テレビ批評のエッセイで鋭い筆を振るう「青木るえか」さんの本。青木さんは主婦で、旦那さんの転勤によって日本中を転々としている。子どもはいない。その彼女がどのような気持ちで日々過ごしているかが、よくわかった。でもタイトルは、
「"生"乾きの老人」「"老人"の予備役」「"老人"のソフトランディング」「"老人"への備え」「"老人"がやってくる」
といったように、「定年」よりも「老人」にした方がいい感じの内容でした。あ、「老人」というのは「人生の定年」ということか?
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(2014、5、2読了)
2014年5月 6日 13:15
新・読書日記
2014_056
『書庫を建てる~1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト』(松原隆一郎・堀部安嗣、新潮社:2014、2、25)
太い帯の写真が素晴らしい。口絵の写真も素晴らしい。
本好き(で、本を読んだり書いたりするのが仕事の人)が書庫を建てた、というだけの話だと思っていたらそれだけではなく、実は松原さんが、実家を処分するにあたって「仏壇」をどこに置くか?という大問題があって、その過程で、自らのルーツ、祖父の歴史を探ることにもなるという物語。そのルーツの落ち着き先、これからのあり方の"結ばれた点"として建てられたのが、この狭小住宅書庫。
「古い本の著者」は、大半が既に死んでいる「死者」。つまりその「本」を収めた「図書館」「書庫」は、「墓所」でもあると。それならば、仏壇があっても不思議はないかも。
そして、若い建築家との付き合いの中で、如何にその"夢"が現実のものになるか?という苦闘の歴史でもある一冊です。
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(2014、4、18読了)
2014年5月 5日 15:14
新・読書日記
2014_055
『夢と魅惑の全体主義』(井上章一、文春新書:2006、9、20)
中川右介さんの『悪の出世学』の書評を書いていた井上章一さん。その井上さんも、たしか「全体主義」の本を書いていたなあ・・・と書棚を捜したら、買ったまま読んでなくて眠っていたこの本が出て来ました。400ページ以上あって、分厚い本ですが、驚いたのは、この本の「帯」に並んだ3人の写真が「ヒットラー・スターリン・毛沢東」。中川さんの本の主人公と全く同じだったってこと!"これは今、読まなくちゃ!"と読みました。その帯の「文字」は、
「独裁者は『建築』でうったえる」
とあり、全体主義が築いた建築物の特徴を記している。建築物でその力を誇示するということを行っていると言うのだ。中でも印象に残ったのは、1936年9月11日にニュルンベルクで開かれたナチス第8回党大会の様子。ここで画期的な照明の演出が試みられたという。ナチスお抱えの建築家シューペアの発案で、会場のツェッペリン広場は、130台ものサーチライトが用いられ、上空を照らしたのだ。光の柱・列柱廊が、無限に高い柱となった。その写真も載っているが、会場は「まるで氷の神殿にいるかのように、荘厳かつ華麗であった」と、イギリスのヘンダーソン大使は書き記しているという。「光のドーム」である。うーむ、スゴイ。大衆の心をつかむには、演出も重要。
さらに、こんな記述もあった。
「ヨーロッパのファッショ的な政権は、あかるいユートピア的な未来像を国民に提示した。ムッソリーニもヒットラーも、ともに権力の簒奪者(さんだつしゃ)である。支配の正統性は、もちあわせていない。その不足をおぎなうためにも、彼らははったりめいた劇場型政治へ傾斜した」
なるほどねー。
後半は日本型のファシズムの建築について、満州での建築なども比較しながらの話。いやあ、勉強になりました。
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(2014、4、20読了)
2014年5月 4日 17:13
新・読書日記
2014_054
『悪の出世学~ヒトラー、スターリン、毛沢東』(中川右介、幻冬舎新書:2014、3、28)
クラシックジャーナル編集長・中川右介さんの著作。20世紀を代表する「悪の独裁者」3人がいかに「出世」したのかを描いている。タイトルだけ見ると、なんだか「ビジネス書」みたいだが、違います。
歴史学者でも政治学者でもない著者が、なぜこんな本を書いたのか?というと、二十世紀の芸術家の評伝を書いていると、必ずヒットラー・スターリンが登場するのだという。それほど、この2人の独裁者は二十世紀に生きた人に影響を与えたということで。毛沢東はクラッシック音楽にはほとんど関係していないが、スターリン・ヒットラーに並ぶものとして書いたのだそうです。
第1部「立身」、第2部「栄達」、第3部「野望の果て」の3部構成。それぞれの「部」の中で、スターリン・ヒットラー・毛沢東の順で書かれているのだが、読んでいてちょっと頭の切り替えが難しかったのが「第2部」の「ヒットラー」。続けて「第3部」を読みたくなった。そこで、「第2部」の「毛沢東」は飛ばして「第3部」の「ヒットラー」を先に読んだ。
一番「そうだったのか!」と驚いたのは、1932年1月30日、ヒンデンブルク大統領が「不本意ながら」ヒットラーを首相に任命してれからの「スピード感」である。
2月27日に国会議事堂放火事件が起き、その犯人がオランダの元共産党員。この事件を口実にして、ヒトラーはヒンデンブルク大統領に、憲法にある基本的人権を停止させ、共産党員を従来の法的手続きなしに逮捕できるようにした。ただし、共産党の活動は禁止しないのがミソ。戦術。共産党の活動を禁止すると、選挙でその票は社会民主党などに流れてしまうからだ。
共産党員が次々逮捕される中で、選挙当日の3月5日、ナチスの圧勝かと思ったらそうではなく、総議席数647のうち、ナチスは288、社会民主党が120、共産党が81、中央党が74、国家人民党が52、その他が32議席で、ナチスの得票率は43,9%と過半数に届かなかったのだ!国家人民党と合わせて340議席で過半数に達したが、単独過半数は取れなかった。意外!そこでヒットラーは何をやったか?
「分子が変わらないのなら、分母を小さくすればいいじゃない」(マリーアントワネット風)
3月9日、ヒットラーは「共産党の国会での議席を剥奪」した。既に共産党の議員はほとんど逮捕されており、国会には登院できなかったという。その議員資格まで剥奪した。当選させておいてから剥奪する、これで共産党の議席81がなくなり、総議席数は566に。過半数は284となり、288議席のナチスは「単独過半数」となったのだ。
ここからの「スピード」がまたスゴイ。3月13日に国民啓蒙・宣伝省を設立、ゲッペルスを大臣に。20日、ダッハウに強制収容所設立。23日、国会で「全権委任法」成立。首相であるヒットラーに憲法以外のすべての法令を、国会の承認も大統領の署名もなしに制定する権限が与えられた・・・(あれ?なんだか似たような話を最近耳にした気が・・・集団的自衛権の解釈?)これでは国会は「ないも同然」。
4月7日ユダヤ人を公職から追放するための「職業管理再建法」制定。26日、秘密国家警察(=ゲシュタポ)創設。「ゲシュタポ」の意味は「無慈悲」。6月、社会民主党も活動禁止に。国家人民党も解散に追い込まれる。7月にはナチス以外のすべての政党が解散させられ「ナチス」のみに。11月、また選挙が行われ、ナチスが3965万票・661議席を獲得したが、なんと無効票も335万票・7,8%あったという。12月、「党と国家の統一のための法律」が公布され、ナチスが国家に編入された。翌1934年1月1日、ヒトラーは年頭所感で「国家社会革命は勝利した」と宣言。この間、なんとたったの1年なのである・・・これには驚いた。2月には参議院も廃止。この間に取った「強引な手段」は「共産党の議員資格をはく奪した」だけ。たった一つの"強引な手段"をテコとして、議会で単独過半数になったことだけで、国家の統治機構改革をやってしまったのだ。
あれ?この「統治機構改革のスピードを求める人」、どこかにもいたような気がする・・・。
その後、恒例のヒンデンブルク大統領が危篤になると「大統領職と首相を統合する」ことが決められた。それが8月1日。翌2日、ヒンデンブルク大統領死去。86歳。前日に決めた法律が発効した・・・。
スターリンと毛沢東の記述も勉強になったが、一番印象に残ったのは、ヒットラ―のこのくだりであった。
star4
(2014、4、5読了)
2014年5月 4日 01:12
新・読書日記
2014_053
『いちえふ~福島第一原子力発電所労働記』(竜田一人、講談社:2014、4、23)
ペンネームは「竜田一人」は「たったひとり」か!
「福島原発1号機」での「労働ルポ」漫画。ツイッターで知って書店に行くと、ちょうど売り出されたばかりで購入できました。梅田の書店では、店の前に大きなポスターが!
講談社「コミックモーニング」は読まないので、この漫画は知らなかったのですが、なぜか「モーニング」で連載されているコミックの単行本は、何種類か持っています。絵よりも文字が多い感じで、じっくりと読む。どこかで見たような気がしていたのだが、なんと今年の「3.11」に「ミヤネ屋」で紹介していた漫画ではないか!思い出した、あれか!
なかなか知ることのできない原発で働いている人たちの「本音」を知ることが出来る。
star5
(2014、4、29読了)
2014年5月 3日 21:57