新・ことば事情
5428「自首と出頭」
【2008年6月10日に書き始めました。当時の番号は「平成ことば事情2349」】
随分前のことになりますが、いまだに解決されていない大阪・堺市の母娘殺傷事件で、被害者の父親が、
「犯人に自首してほしい」
と言っていました。でもこれ、
「自首」
でいいんでしょうか?
「出頭」
ではないのでしょうか?
また、2008年4月30日の夕刊に、ガソリンスタンドで、ガソリンをポリタンクか何かに移そうとして引火して(失火ですね)逃げた「49歳の男」が、警察に出てきた様子を指して、各新聞は、表記が違いました。
(読売)出頭
(朝日)自首
(毎日)出頭
(産経)出頭
で、朝日新聞だけ「自首」で、他紙は「出頭」でした。結構、揺れているのかもしれませんね。
【ここから2014年4月23日に書きました】
と、ここまで書いてから、なんと6年が経過!
その間、"ほったらかし"でしたが、忘れていたわけではありません!
2014年4月17日の「ミヤネ屋」の中で「自首と出頭」に関するケースが、また出て来ました。
その際に参考にしたのが、読売新聞社の『読売スタイルブック2014』の「法令関連用語」の欄です。そこには、こう記されていました。
「『自首』は刑事事件の発生がまだ捜査機関に知られていないか、知られた後でも容疑者が特定されていない段階で、検察官、警察官に犯罪事実を自ら申告し、訴追を求めること。刑法上、刑の減軽事由とな」
ると。そして、
「容疑者が特定された後で名乗り出た場合は『自首』ではなく『出頭』とする。『出頭』は裁判で情状の対象となることがある。ただ、自首の成立が裁判の争点になることが多いため、公判では原則的に『出頭』を使用することが望ましい」
と記されていました。
つまり、まだ犯罪がバレていないのに警察に出て来るのが「自首」。指名手配されたあとだと「出頭」。犯罪はバレていても、まだ犯人が誰かわからない場合は「自首」だが、裁判での量刑(情状酌量)に関係して来るので、この場合も「出頭」と表現することが多いということですね。
今回のケースでは、普通は「裁判での量刑(情状酌量)に関係して来るので、この場合も『出頭』と表現することが多い」にも拘わらず、被害者の肉親が、
「犯人に自首を呼びかけた」
というシーンだったので、「自首」に" "を付けて、
「犯人に"自首"を呼びかけた」
としました。