新・ことば事情
5353「たわわ」
2月11日の読売テレビ・夕方の番組「関西情報ネットten.」で、気象予報士の蓬莱さんが、和歌山県みなべ町のイチゴ農園から中継していました。その際に、蓬莱さん、
「ご覧ください、この『たわわ』に生(な)ったイチゴ」
と言っていたのに、違和感がありました。「イチゴ」は「たわわ」に生るのか?
私が持っている語感では「たわわ」は、
「枝がたわむほど実が生る様子」
に使うと思います。たしかに、そのイチゴハウスでは、イチゴの実がいっぱい生っていましたが、イチゴは「木」ではなく「草」ですから、「枝がたわむほど」という表現は当てはまらないのではないか?と思いました。その様子を指すのであれば、
「鈴なりに生ったイチゴ」
ではないでしょうか?「たわわ」が似合う果実は、
「リンゴ(林檎)、ナシ(梨)、モモ(桃)、ミカン(蜜柑)、カキ(柿)」
等の果実ではないかなあと思いました。それと、
「果実が空中に浮いている状態」
で、風で果実が揺れると枝がしなう(しなる)、そんな状態が「たわわ」ではないでしょうか?ですから、「木の枝」ではなく「草の蔓」だと、
「空中には浮かず、地べた」
なので、「たわわ」とは言えないですね。
しかし、今回のイチゴ園では、イチゴを地べたから1メートルほどの高い所で、土が付かないように栽培していました。つまり、
「ちょっと、空中にぶら下がる状態にあった」
ので、つい「たわわ」という表現が出てきてしまったのかもしれませんね。
『精選版日本国語大辞典』で「たわわ」を引くと、
「(木の枝に多くの実がなったりして)枝がしなうさま。たわ。」
とありました。この記述は、大体、私の語感と同じですね。
「たわわ」で自分のパソコンを検索してみたところ、ちょうど10年ほど前の2003年12月に、NHKの原田邦博さんに、
「野菜に『たわわ』は使うか?」
という質問をしていたようで、原田さんから、こんなお返事を頂いていました。
「『たわわに実る』という形容が、野菜などにも使えるかというお話です。
本来の用法は『"枝"もたわわに実る』ですので、『柿、栗、リンゴ』などに使えるのは当然ですが、『稲穂がたわわに実る』とか『メロンがたわわに実る』まで認めるかということです。つまり茎や蔓(つる)など"枝"以外でも"たわわ"になるものがあれば許されるかという問題です。
どうも最近は、たくさん・大きく実がついていると、何にでも安易に使ってしまう傾向があるようです。NHKでは、一応『木になる果実』を原則にしていますが、『ブドウ』は境界線上かと思います。また『たわわな~』という形容はまだ認めていません。そのうち、『皿にたわわに盛られた果物』なんて言い方が出てくるかもしれませんね。」
ということでしたので、やはり「木になる果実」が本来の使用法でしょう。
原田さんのメールにあった、
「稲穂がたわわに実る」
も、言ってしまいそうだけど、なにか違和感が。
「稲穂」は「米粒の集合体」ですね。小さい。たとえ「集合体で大きくなっている物」でも、あまり小さなものは「たわわ」とは言わないのではないか。「一つで、ある程度の大きさがあるもの」に使う気がします。その意味では「ブドウ」にも使えないかなあ。「ブドウの房」は「小さなブドウの実の集合体」ですからね。
「稲穂」の場合は、「『たわわ』を使わずに、どう言うか?」と言うと、
「豊かに実った稲穂」
などと具体的に言うしかないんじゃないでしょうかね。