新・ことば事情
5311「したさけに」
12月19日の朝7時ごろ、「餃子の王将」で知られる、京都市山科区の「王将フードサービス」本社前で、大東孝之社長(72)が拳銃で撃たれて死亡しました。殺人事件です。
NHKの関西ローカルのニュースでは、近所のおばあさんにインタビューしていました。そのコメントを、テロップでフォローしていたのですが、おばあさんが、
「大きな音がしたさけに」
と言っていたのに、テロップは、
「大きな音がした先に」
になっていました。関西弁が分かる人には「したさけ」というのは、
「したさかいに」
で、共通語で言えば、
「したから」
ですね。しかし、このインタビューを取った記者、編集者、デスクは、
「さけ」(=「さかい」=「から」の意味)
という京都方言を知らなかったようです。
「さかい」「さけ」ともに、確かに最近は若い人の口からは聞かなくなったような気がします。関西でも、年配の人しか使わなくなっているんでしょうね。
有名な山形県民謡に「最上川舟歌」というのがあります。この曲の中にも「さけ」の仲間が出て来ます。それは、
「酒田さ えぐはげ」
という歌詞の中の、
「はげ」
です。一見どういう意味?「はげ」がどう関係あるの?と思いますが、この「えぐはげ」は「エグいハゲ」という意味ではなく、
「(酒田へ)行くから」
という意味。つまり、
「はげ」=「さけ」
なのです。「は行」と「さ行」の「音位転換」はよく見られ、
「それなら」→「ほんなら」→「ほな」
「それで」→「そんで」「そいで」→「ほいで」
もその仲間だと思われます。山形はきっと「北前船」が寄港していたでしょうから、関西弁の影響は少なからずあったのではないかなあと想像しています。