メニュー偽装発覚から1か月、今頃になってリーガロイヤルホテルが「後出し」で発表するなど、その広がりはとどまるところを知りません。
さて、そんな中で、近鉄系ホテルでミシュランガイドに掲載された「奈良万葉若草の宿三笠」(奈良市)などがメニュー表示と異なる食材を提供していた際、「和牛朴葉(ほおば)焼き」「和牛ステーキ」と表示しながら、豪州産の「成型肉」を使うなどの不適切な表示がありました。
この「成型肉」ですが、
「成型肉」「成形肉」
の2通りの表記があるようです。『新聞用語集2007年版』によると、
*「成形」=(形をつくる)胸郭成形
*「成型」=(型にはめて作る)規格成型
とその違いを示した後、
*「整形」=(形を整える)整形外科
とありましたが「せいけい(成形・成型)肉」は用例にありません。
各社はどうしているか?11月5日の夕刊などで見てみたら、
(見出し) (本文)
(読売) 成形肉 牛脂を注入した加工肉
(朝日) 成型肉 ブロック肉を結着剤でつなぎ合わせていた
(毎日) **** 牛脂を注入した加工肉
(産経) 牛脂注入肉 牛脂注入した加工肉
(日経) 成型肉 牛脂を注入した加工肉
ということで、読売新聞は「成形肉」を使っているということ以外は、はっきりわかりませんでした。
そこで各社の用語担当者何人かに聞いてみたところ、
<毎日>「成型肉」
奈良・三笠の「せいけい肉」の件、迷ったが、大阪本社の原稿で、11月3日朝刊(大阪)1面でラベルの写真が載っており、「牛肉加工肉(成型肉)」と書かれていた。業界用語では「成型肉」と言っているようだ。「型」にはめたとは思えないが、業界の定義による分類に合わせて「型」か。
毎日新聞のデータベースでは今回の報道以前の2005年からほぼ一貫して「成型肉」。2009年の記事だと「成型肉」の解説として、
「全国食肉事業協同組合連合会(全肉連)によると、1960年代ごろに日本で生まれたようです。加工過程で出る肉の切れ端の有効活用や、母牛の役目を終えた経産牛など質が劣る肉を食用販売するための知恵でした。スーパーなどでも売られていますが、市販肉の流通量は全体の1割未満で、ほとんどは業務用。パックには「成型肉」「加工肉」などと表示することが定められています」とあった。
<NHK>「加工肉」
現在は「せいけい肉」は使わず、「加工肉」としている。(昔「成型肉」を使ったという記録はあるが)
報道局で使っている同音語辞書では(ATOK連動の独自辞書)次のようになっている。
*「成形」=形を作ること。一定の形にすること。形成。
(例)「胸部形成(胸郭形成)」「陶器の成形」「ガラスの成形は難しい」
*「成型」=型にはめたりプレスしたりして、同じ形の物を作ること。
(例)「成型加工」「プラスチックの成型」「射出成型」「真空成型」
*「整形」=形を整えること。特に手術などによって、体の部分の形を整えること。「整形外科」は、骨格や関節、筋肉などの形態の異常を矯正して、機能に障害がなくなるようにする外科。
(例)「整形外科」「美容整形」「整形手術」
※「形成外科」とは別なので注意する。「形成外科」は、やけどの痕などの形態
的な損傷を修復する外科。
今回の肉は、一定の型にはめると言うより、一定の形にすることなので、「成形」ではないか?
<朝日放送>「成型肉」
用語として統一したわけではなく、問題の肉を梱包していた箱のラベルに「成型肉」という表示があり、その接写を放送したため、それに合わせる形にしたようだ。
ということで、なぜか毎日新聞の方からはたくさん(3人)ご意見を頂きました。
ありがとうございました。
それで、読売テレビはどうしたか?というと、報道デスクの判断で、
「成型肉」
としたようです。理由は、
「箱の表示が『成型肉』だから」。
そして、ホテルは「成型か?成形か?」という認識はなくて、
「結着肉」
とのことでした。これで「けっちゃく(決着)」?ではないですね。「結着肉」とは、
「複数の肉を、結着剤でつなぎ合わせた加工肉」
のこと。これに対して「牛注入肉」は、
「インジェクション」
友よばれるようです。文字通り、
「注射」
ですね。あの作業の様子を見たら、針がいっぱいで「痛そう・・・」でしたが、11月20日の読売新聞朝刊には、
「『牛脂注入』正当な技術なのに」
という大きな見出しの記事が。
豪州産の硬い肉に「国産牛脂、水あめ、アミノ酸」等を加えた調味液を針で注入すると、加工前は噛み切るのに力が要り奥歯に肉がつまりそうで臭みもかすかにあったのが、加工後の肉は軟らかくて弾力もあり、噛むと甘みが広がるそうだ。(水あめも入ってるのなら、甘いでしょう。)
記事によると、メニュー表示について消費者庁は、こういった肉については、
「牛脂注入加工肉使用」
また、肉の切れ端を結着剤でつなげたものは、
「成形肉使用」
などと記すよう指針で求めているそうです。「生鮮品の肉」と誤解されるのを防ぐためです。牛脂注入肉を使っているあるステーキチェーン店では、
「味を整える(調える、か?)ための加工をしております」
と記しているそうです。しかし「生鮮品の肉」と誤解されるのを防ぐためには少なくとも、「加工肉」
という表記は必要なようですね
(2013、11、20)