新・ことば事情
5201「地滑りか?土砂崩れか?がけ崩れか?」
<2005年8月に書き始め、2006年6月17日に書き足したまま、ほうってありました。当時の番号は「平成ことば事情2112」。本来こちらのほうが、2013年7月22日に書かれた「平成ことば事情5189」よりも先に書かれていたものでした。>
2005年8月10日、奈良県で大変大規模な「土砂崩れ」があり、その一部始終を、監視カメラが捕らえていました。山が動いてくるような崩れ方は、まさに「衝撃映像」。電柱がのみ込まれていく様子は、ゴジラが出てくる怪獣映画を見ているようで、自然の脅威をまざまざと見せつけてくれます・・・。
さて、これを今「土砂崩れ」と言いましたが、他局(ABC)では夕方のニュースでは、
「地滑り」
と表現していました。果たして「土砂崩れ」と「地滑り」、そして「がけ崩れ」はどう違うのでしょうか?
読売テレビではこの日の夕方の「ニューススクランブル」から、
「地すべり」
にしました。というのも、旧・近畿地方建設局から、
「これは『地すべり』です」
と通知があったからです。ところが2005年8月11日に新聞各紙を見てみると、
(日経)土砂崩れ
(読売)土砂崩れ
(産経)地滑り
となっていて、「土砂崩れ」が2社もあったのです。(朝日と毎日には記事が載っていませんでした。)
その後、2006年2月、フィリピンのレイテ島で大規模な
「地滑り」
がありました。泥が10メートルの深さにもなっているということです。
こういったところから私が考えたのは、
「何も建物が建っていないところで切り立った土地や崖が崩れたら『崖崩れ』」
「建物が建っているところの地面が崩れたら『地滑り』」
という区分。
「平成ことば事情5189」で書いたように、気象予報士の蓬莱さんによると、
「『地滑り』は前兆がある。急に起こるのが『崖崩れ』」
ということです。
で、「土砂崩れ」は?これも辞書を引いてみましょう・・・あれ?『精選版日本国語大辞典』『デジタル大辞泉』『明鏡国語辞典』『広辞苑』『新明解国語辞典』『三省堂国語辞典』『新潮現代国語辞典』『岩波国語辞典』には「土砂崩れ」が見出し語として載っていない!「土砂」の用例として「土砂崩れ」が載っているものもあるが、意味は書いていない!
『新選国語辞典』にようやく載っていました!
「土砂崩れ」=豪雨や地震のために山などの傾斜地で土砂が崩れ落ちること。
ちなみに「崖崩れ」「地滑り」は、
「崖崩れ」・・・あ、見出し語に載っていない。
「地滑り」=傾斜した土地の地面の一部が滑り落ちる現象。
でした。あまり違いは分かりませんでした。そこで、気象予報士の菅さんに聞いてみました。
「『崖崩れ』は、岩がむき出しのような角度が70度~80度の"切通し"のような崖が崩れるものです。それに対して『地滑り』は、角度が30度~40度ぐらいのところで表面の土(表土)が広い範囲にわたって崩れる現象です。『深層崩壊』と呼ばれる現象も『地滑り』の一種で、『雪崩』でいうところの『全層雪崩』のような現象ですね。また『土砂崩れ』は、『地滑り』と同じく角度が30度~40度のところで起きますが、範囲が"一部"である点が『地滑り』とは異なります」
とのことでした。なるほど!よく分かりました。菅さん、ありがとうございました!